40年の伝統と進化共存のノースヒルズ

2023年8月23日 10:10

北海道新冠町にあるノースヒルズ本場のゲート

 ▼日々、トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は大阪本社のベテラン菱田誠が担当する。今回、スポットを当てたのはノースヒルズの前田幸治代表。セレクトセールで購入した5億2000万円のコントレイル産駒の舞台裏を伺うも、むしろ来年に開場40周年を迎える牧場の秘話や、新戦略の方が興味深いものだった。

 お盆のお墓参り。現世から伝える思いは人それぞれで、ノースヒルズの前田幸治代表は奈良県吉野町にあるお墓に手を合わせ、ある報告をしたという。

 「昔、牧場を起こす当時にオヤジからリスクが大きいので“馬主はいいが、牧場だけはやめとけ”と忠告されたんだ。でも、その牧場が来年で40年目になるので胸を張って報告をしたよ。この先も息子の代や、もっと先まで繁栄することを願ってきた」

 北海道新冠町のノースヒルズでは来年5月に盛大な40周年式典が準備されている。牧場の規模は開場当時とは比べものにならず、新冠本場の他に、1歳馬が過ごす清畠が増えたのは周知の通り。加えて「分場と呼ばずセカンド(2)」で、新冠2があり、来秋には清畠2も増設。その面積は新冠本場が36万坪、新冠2が6万坪、清畠本場が33万坪、清畠2が15万坪と巨大な規模だ。さらにトレセン入厩前に2歳馬が鍛える鳥取県の大山ヒルズもある。

 「40年やってきて、馬づくりがようやく分かってきたよ。それほど奥が深い」

 ダービー3勝(キズナ、ワンアンドオンリー、コントレイル)は堂々たる偉業だが、それでも”極めた“と言わないのは前田幸治代表のこだわりだろうか。

 人脈に目を向けると飼料を含む全般でスティーブ・ジャクソン氏、血統や配合でマイケル・ヤング氏がノースヒルズを支える外国人として有名だが、新戦略もある。将来的には北海道の牧場を長男の幸貴氏(27)、大山ヒルズは次男の幸大氏(22)をトップに据えると同代表は明言する。主要ポストにファミリーを配して繁栄する象徴は天下の社台グループの吉田家で、海外に目を向けてもやはりファミリーの成功例は多い。

 今夏のセレクトセールではコントレイルの産駒を5億2000万円の最高価格で落札したことも話題になったばかり。「どこまでも勝負する気だった」と引くに引けない気構えを前面に出したとするが、ノースヒルズも種付け権利を有しており男馬12頭、女馬3頭が今春に誕生している。内外からコントレイル産駒の金の卵をそろえたわけだ。

 「コントレイル産駒の人気の高さは期待通りでありつつ、あそこまで!?という驚きはあったし、キズナも社台スタリオンステーションを代表する種牡馬になっている。コントレイルとキズナの現役時代は馬主冥利(みょうり)に尽きたし、今は親心みたいな気持ち。誇らしいよ」とディープインパクトの後継種牡馬2頭にエールを送る。

 常々、口にする「馬主は9回の落胆と1回の喜び」は、勝つ難しさが伝わる名言。さらに「競馬は果てしない夢がある」「世界に通用する馬づくりをする」には飽くなきチャレンジ精神も伝わってくる。意気軒高とはこのことだろう。

 コントレイル産駒の活躍を目にするのは、まだ2年も先の話。むしろ今回の取材ではブリーダーとして牧場の拡張と、繁殖牝馬85頭を有し、なおかつ海外にネットワークを広げ、競りでも逸材を発掘するなど夢を追うための準備を怠らない姿勢の話が収穫だった。

 ◇菱田 誠(ひしだ・まこと)1959年(昭34)7月1日生まれ、神戸市出身の64歳。スポニチ入社以来、一貫してレース部に在籍。競輪記者を経て、競馬記者歴は今年で28年目。香辛料の摂取はハンパではない激辛党。

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