矢作厩舎の夏競馬を支える北海道の外厩施設

2023年8月30日 10:15

真狩村に完成したコテージ・エクリプスと矢作芳人調教師

 ▼日々、トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の高木翔平(33)が担当する。矢作芳人調教師がプロデュースする画期的な外厩施設「真狩サマーステーブル」について書いた。

 札幌市内から車で約1時間半。雄大な羊蹄山が見え始めると、自然豊かな真狩村に到着する。車から降りれば、真夏でも少しひんやりとした気候。そんな馬も人も過ごしやすい土地に7月下旬、矢作芳人調教師が全面プロデュースした「真狩サマーステーブル」(設立は妻の株式会社ウィリアムレーシング代表・久子氏)が完成した。矢作師は「真狩村に外厩施設をつくるのは昔からの夢でした。さまざまなメリットがあると考えています」と話した。

 夏場に利用される当施設には厩舎2棟(20馬房)があり、トレッドミル(来夏から運用予定)も併設。矢作師は「(利用予定頭数は)10頭以内で5、6頭かな。トレッドミルはまずは人に経験をさせて、来年から稼働させたい」と見通しを語った。利用する馬は1~2週間程度の滞在で、英気を養うことになる。

 6月10日から函館6週、札幌7週で開催されている今年の北海道シリーズ。2場をまたいで4、5戦する馬も多く、その場合は「競馬場に滞在し続ける」か「牧場への放牧」を選ぶことになる。しかし、どちらにもメリット、デメリットがある。前者は限られた各厩舎に割り当てられた馬房数が圧迫され、心身のリフレッシュも難しい。後者は競馬場、牧場間の長時間輸送を強いられ、特に帰厩直後は輸送での消耗が懸念される。そういった悩みを解消できるのが当施設の強みだ。師は「馬を(競馬場に)入れたくても馬房が足りなくて頭を悩ますことが非常に多い。そういった際に落ち着いた環境のここに一時的に置けるのは大きい。車で札幌から1時間半、函館からは2時間半と中間地点にあるのも、馬の輸送での消耗を軽減できる」と説明した。

 滞在中の環境も人馬にとって最高。施設の近くには清廉な小川が流れ、豊富な湧き水がある。「これが馬にとっていい軟水なんだよ」と師。取材時に滞在していたニコニコルンルンは、落ち着いた環境で馬体を大きく回復させたという。また、厩舎から徒歩5分圏内には「コテージ・エクリプス」も併設(10~5月は一般客も宿泊可能)。同師は「馬と一緒にやって来た厩舎スタッフもここでリフレッシュできればね」と話した。

 将来的には同厩舎で引退した馬を引き取り、養老牧場を開設する構想もある。師は「引退した馬に合いに来るファンの方がいれば、施設(コテージ)も真狩村も盛り上がる。今後、他の厩舎の馬たちから利用したいという声があれば応えたい」と先のイメージを語る。暑熱対策が叫ばれ続ける近年の夏競馬。現場からは涼しい北海道の開催日程増を求める声も多く、もしそうなれば同施設の重要性はさらに高まることになる。トップトレーナーの座に満足することなく、常に先を見据える矢作師の取り組みに注目したい。

 ◇高木 翔平(たかき・しょうへい)1990年(平2)4月29日生まれ、広島県出身の33歳。15年入社で競馬班一筋。

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