【天皇賞・秋】イクイノックス200点 頂上知らずの成長力は晩成の巨木・屋久杉のよう

2023年10月24日 05:30

イクイノックス

 競馬界の樹頂まで上り続ける驚異の成長力だ。鈴木康弘元調教師(79)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第168回天皇賞・秋(29日、東京)ではG14連勝中のイクイノックスに異例の200点をつけた。前走・宝塚記念(1着)時の馬体診断紙面(6月20日付)でつけた150点に続く満点(100点)超えだ。達眼が捉えたのは屋久杉のような頂上知らずの成長ぶり。史上3頭目となる秋の盾連覇を目指す。

 晩成の巨木、屋久杉のような頂上知らずの成長力。4歳秋を迎えたイクイノックスの姿に触れた時、私は大きな勘違いをしていたことに気づきました。前走・宝塚記念時に「比類なき名馬の完成形」と記しましたが、まだ完成していなかった。その力強く張り出したトモ(後肢)は4歳夏を越してさらにせり上がっています。トモの中心部にあたる臀部(でんぶ)の筋肉、殿筋のくびれも一層大きくなり、力こぶのように隆起している。重厚さを増したトモがどっしりと大地に根を下ろすように立っています。

 その姿は数年前に訪れた屋久島の山地にたたずむ屋久杉を想起させます。鹿児島県の南方に位置するこの島は花こう岩でできているため根を土の中に伸ばせず、横にはっている。栄養が十分に取れずにゆっくりと成長する分、年輪が細かく詰まった耐久性の高い大木となります。強度に優れ、木目は他に類を見ないほど緻密で美しい。江戸初期には薩摩藩がこの巨木を求めて屋久島を直轄領としたほどです。

 ゆっくり成長した密度の高い年輪が名木を生む。競走馬にも同じことが言えます。3歳春のクラシックで惜敗を重ねた当時、イクイノックスは食が細そうなアゴっ張りの足りない顔をしていましたが、3歳夏を境にカイバを徐々に食べられるようになったのでしょう。ゆっくりと、しかし、着実に成長し続けている。腱がしっかり浮き出た四肢は屋久杉の木目のように美しく、強度に優れている。加減せずに鍛え込める、この丈夫な四肢も息の長い成長を支えています。屋久杉が大器晩成型の名木なら、イクイノックスは大器晩成の名馬です。

 私が屋久島ツアーで目の当たりにしたのは朝焼けに輝く屋久杉でした。イクイノックスの青鹿毛も秋の陽光にまぶしく輝いています。その被毛の下にある筋肉は筋繊維が浮き上がって見えるほど繊細で柔らかい。屋久杉の緻密な木目のようです。気持ちが入った顔つき。心地よさそうに流した太い尾。心身共に非の打ちどころがありません。

 屋久島を訪れた頃、巨木・縄文杉を超える樹高45メートルの「天空杉」が未踏の奥地で発見されました。その樹頂は天に昇る竜の頭に見えるそうです。競馬界の樹頂まで上り続ける晩成の成長力。イクイノックスは天空の馬かもしれません。(NHK解説者)

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の79歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~2004年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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