笑顔と思慮深さ 愛される男カッチ―

2023年12月15日 05:05

07年シンガポール航空国際Cを制した際の田中勝春(ロイター)

 【競馬人生劇場・平松さとし】
 田中勝春騎手が調教師試験に合格した。

 “カッチー”とはたくさんの思い出があるが、中でも印象に残っているのは2007年の出来事だ。この年、中山金杯(G3)をシャドウゲイトで制して好ダッシュを決めると、4月には7番人気のヴィクトリーを駆って皐月賞を制覇。1992年にヤマニンゼファーで制した安田記念以来、15年ぶりのG1制覇を飾った。

 「音無(秀孝)調教師から“逃げないで”と言われていたけど、行きたがったので、指示を無視して逃げました。けんかするよりは馬のリズムを重視した方が良いと判断したんです」

 その判断が奏功しての勝利。ビッグレースを勝っただけでなく、この年、この時点でのカッチーはリーディングトップ。質、量ともに目を見張る活躍をしていた。

 そんな勢いはまだ止まらなかった。皐月賞制覇からわずかに約1カ月後の5月20日、今度はシンガポールで大仕事をやってのけた。先出のシャドウゲイトとのタッグでシンガポール航空国際C(当時G1)を見事に勝利。自身初の海外勝利を、G1という大舞台でマークしてみせたのだ。

 明るい性格で誰からも愛される田中勝騎手だが、この時、聞いた話で印象に残った言葉があった。

 「興奮も緊張しているつもりもなくて、午後11時には眠れたのに、深夜2時に目が覚めてしまいました」

 それからはシャドウゲイトのことを考えると目がさえてしまい、再び眠りについたのは朝の6時になってからだったという。常に笑顔で人当たりも良い態度から、勘違いされやすいが、実は細かいことまで考えている。思慮深い男なのだ。いや、だからこそ、誰からも愛されているのだろう……。

 さて、そんな彼だが、来年の2月を待たず、年内で騎手生活35年の幕を下ろすという。

 「たくさんの人でにぎわうような厩舎にしたいですね」

 さまざまなことを考えながらも笑顔を絶やさない田中勝春調教師の元には、多くの人が集まるだろう。騎手引退は残念でならないが、厩舎の開業は今から楽しみだ。 (フリーライター)

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