【追憶の札幌2歳S】08年ロジユニヴァース のちのダービー馬を鍛え上げたコロンブスの卵的“陸橋調教”
2024年8月28日 06:45 のちに第76代ダービー馬へと上り詰めるロジユニヴァース。だからというわけではないが、札幌2歳S出走前から、この馬には他馬とは違う“空気”があった。
関東馬なのにデビュー戦が阪神(1着)。直前、栗東に滞在させていたからだ。恐らくは担当厩務員のもう1頭の馬が重賞に出走するため帯同したのだろう。もし、萩原清師がロジユニヴァースの素質を見込んで栗東へと送り込んでいたのであれば、それは相当な慧眼と言わざるを得ない。
そして2戦目が札幌2歳S。ここでもロジユニヴァースは記者たちの注目を引く動きを見せる。厩舎地区にある「陸橋」で足腰を鍛えたのである。
説明が必要だ。札幌競馬場の厩舎は2地区に分かれている。間に環状通という道路があり、そこを陸橋で渡って競馬場のコースから第2厩舎地区へと移動する。この環状通は、かつては川だった。第2厩舎地区は「チロリン村」と呼ばれるが由来は不明。陸橋の正式名称は「のぞみ橋」だ。
ロジユニヴァースは通常の調教メニューを終えた後、その「のぞみ橋」を往復して鍛えた。記者は調教時間中、だいたいこの橋を4往復ほどしたが、なかなかいい運動になる。息が上がるところまではいかないが、橋を渡った後は少し休もうか、という気にはなる。ここを何度も渡れば、サラブレッドでも負荷はかかるだろう。
ロジユニヴァースは1番人気。強い競馬を披露した。中団でじっくりと流れに乗って直線へ。先に仕掛けた数頭を見ながら脚を伸ばし、残り50メートルで先頭に立って押し切った。
まさに完勝。新馬戦から28キロ増での勝利に底知れぬ可能性を感じさせた。横山典も「しっかりしている馬。だが、まだまだ良化の余地を残しているよ」と高い将来性を約束した。
そこからだ。のぞみ橋が「ロジ橋」と呼ばれるようになったのは。ネットの解説で「ロジユニヴァース橋」と書かれているものもあるが、記者の周辺では判で押したように「ロジ橋」だった。
馬の鍛錬に橋を活用するとは、ロジユニヴァースが実行するまで思いもしなかった。まさにコロンブスの卵。萩原師の発想力に驚いたが、そこからダービーまで勝ってしまうとは。
翌年、不良馬場のダービーを勝ち、横山典が全身を真っ黒にしながら喜んでいるのを見て、すぐに思い浮かんだのが、ロジ橋を登って鍛えているロジユニヴァースの後ろ姿だった。