“勝てる女性騎手”を体現 菜七子が残したレガシーは永遠に受け継がれる
2024年10月12日 05:25 【記者フリートーク】“菜七子フィーバー”に沸いたデビュー当初。一挙手一投足に注目が集まり、重圧に負けてムチを握りしめたまま厩舎の外に出られない日もあった。そんな日は師匠の根本師が集まる報道陣を解散させた。こんな少女が勝負の世界でやっていけるのかと思う時もあった。それでも、経験を積むたびにたくましくなり、表情が明るくなった。気づけばレース後に中堅騎手と激しい言い合いもできるように。「たまに自分でもこんなに負けず嫌いだっけと思います」と笑う姿に成長を感じた。
菜七子の登場がハード、ソフト両面でJRAを変えた。競馬場の女性専用ルームの完備、負担重量制度の変更。何より、“勝てる女性騎手”を体現し続けたことが後輩たちの道を切り開いた。ここ数年、JRA競馬学校に入学する女子生徒たちは憧れの騎手に「藤田菜七子」の名を挙げる。
結婚報道後、取材中の口調、表情が柔らかくなったと感じることがあった。屈強な先輩たち、勢いのある後輩女性騎手に負けないギラギラとした感じが少しずつ薄まり、ある調教師には「昔のようなガッツを出しなさい」と指摘されることもあった。口には出さないが、引退の瞬間が近づいている予感がした。思い描いた最後ではなかったかもしれない。それでも菜七子がJRAに残したレガシーは永遠に受け継がれていく。(競馬担当・高木翔平)