佐々木師にキズナから「最高のプレゼント」
2025年9月3日 05:05 日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は大阪本社の新谷尚太(48)が担当。インプレスを起用した先月16日の新潟ジャンプS(J・G3)を制し、調教師として史上8人目のJRA全10場重賞制覇を達成した佐々木晶三師(69)に喜びの声を聞いた。
ラストチャンスをものにした。来春に定年引退を控えている佐々木師にとって新潟の重賞に管理馬を起用するのは新潟ジャンプSのインプレスが最後。小牧を背に1番人気に応え、レース後は検量室前で満面の笑みを浮かべ、殊勲の人馬を出迎えた。「感無量の勝利でした。厩舎スタッフや関東の関係者の皆さんも祝福してくださって、ダービーを勝った時(13年キズナ)と同じくらい声援を頂いた」と競馬場全体に祝福ムードが漂った当日の様子を思い返す。掲げていた大きな目標を達成したことで「もうこれで(調教師を)やめてもいいかなと思う気持ちもあった」と緊張の糸が切れかけた一方で「預けてくださっている馬主さんや厩舎スタッフ、一生懸命走ってくれる馬たちに勝たせられるところはきっちりと結果を残して、最後までやり切ろうと思った」と気持ちを新たにした。
アーネストリーで10年札幌記念V、15年小倉サマージャンプをアップトゥデイトで制し、王手をかけた。「札幌で重賞を勝つのは(起用する機会が少ないから)難しいかなと思っていた。だから、あの勝利は本当に大きかった。小倉と新潟の2場になったことで(記録を)意識して、小倉で勝ってからの10年は本当に月日の流れが速く感じた」としみじみと振り返った。
インプレスは「感動させる」という意味の馬名。自身が手がけたキズナの産駒でもあり、感慨深い一勝になった。「キズナが僕の定年を前に最高のプレゼントをくれた。ドラマであり、ミラクルな勝利だった」。インプレスは平地4勝でオープン入り。23年新潟記念で3着に入るなど重賞でも好走したが、その後は思うような結果を残せず。障害転向を機にジャンパーとしての素質が開花した。昨年6月1日の障害デビュー戦は5着。2戦目は3着で3戦目に勝ち上がると4連勝を飾った。「平地で頭打ちになったから、障害練習をしてみたら凄く上手だった。障害試験も一発で合格したので楽しみになった」と転向の経緯を明かす。
調教師としてのラストサマーは思い出深いものとなった。「インプレスが思い出をつくってくれて、最高の夏になった。厩舎にとっても大きな勝利」。充実した夏を過ごし、秋競馬が始まる。「一日一日をかみしめながら最後まで自分の仕事を全うするだけ」。アーネストリー、キズナの他、タップダンスシチー、コスモサンビームでG1を獲っている佐々木師。ラストシーズンにどんな馬づくりをするのか、現役生活の最終章を目に焼き付けたい。
◇佐々木 晶三(ささき・しょうぞう)1956年(昭31)1月15日生まれ、山口県出身の69歳。74年に栗東・中村武志厩舎所属で騎手デビュー。ホースメンテスコに騎乗した79年桜花賞でG1初制覇。通算1180戦136勝で83年の騎手引退後は田中耕太郎厩舎、坂口正則厩舎などで調教助手を務め、94年に調教師免許を取得し、同年11月に開業した。JRA通算7470戦670勝、うち重賞はG1・7勝(平地+障害)を含む52勝。
◇新谷 尚太(しんたに・しょうた)1977年(昭52)4月26日生まれ、大阪府出身の48歳。18年5月から園田競馬を担当、同年10月に中央競馬担当にコンバート。前職は専門紙「競馬ニホン」の時計班。グリーンチャンネル「中央競馬全レース中継」のパドック解説を担当中。