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【安田記念】藤懸貴志&スズハローム G1未勝利の遅咲きコンビが挑む3連勝戴冠

2026年6月3日 05:20

スズハロームと坂路調整を終え、笑顔を見せる藤懸騎手

 春のG1シリーズの水曜企画は「G1 追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。春のマイル王決定戦「第76回安田記念」は大阪本社・田井秀一(33)が担当。前哨戦ダービー卿CTを最後方一気で制したスズハロームとともにG1初勝利を目指す藤懸貴志(33)に「競馬ノート」「先輩からの刺激」「相棒との出合い」の3テーマを聞いた。

 【競馬ノート】村の総面積の96%を山林が占める長野県大桑村の出身。のどかな大自然に育まれた朗らかな性格で、藤懸の周りはいつも笑顔にあふれる。

 人柄だけでなく、努力を惜しまない姿勢もまた人を引きつける。調教や実戦で手綱を取った馬の特徴はもれなくメモを取る。競馬ノートは数年来の日課だ。「モレイラ騎手もやっていると聞いて、僕ごときがやらない理由はありませんでした。行き詰まった時に、あの時はああだったな…と振り返ったり。最初は形から入って、それがずっと続いています」

 研究を欠かさず、重賞で何度も大穴を演出してきた戦略家。だが、頭でっかちにはならない。「砂をかぶらない位置取りやトラックバイアスも重要ですけど、一番大切なのは馬のリズム」と騎乗スタイルを明かす。その真意を“燃費”に例えて解説する。「車もアクセルをブンと踏んだってエネルギーだけを消費してしまいます。ゆっくり加速しても最後のトップスピードは同じなので」。馬乗り以外にもイメージしやすい具体例に変換できる言語化能力も、また魅力の一つだ。

 【先輩からの刺激】刺激を受ける存在がいる。公私ともに親交が深い松山は競馬学校時代からの付き合い。「自分が1年生の時の3年生。その時からもう18年ぐらいかな。ずっと可愛がってもらっています」。20年秋華賞当日には松山が騎乗するデアリングタクトの装鞍に参加。「普段から鞍の置く位置の話とかもするので。無敗での牝馬3冠が懸かった大一番で了承してくださった杉山晴紀先生も心が広いですよね」

 「兄ちゃん」と呼んで敬愛する身近な先輩が今春、牡牝のクラシック戦線で主役を張った。「純粋に凄いな、と。間近で見ていて円熟味が増してきたと感じます。臨機応変ですし、負けた時に言い訳ができる無難なレースではなく、リスクを背負うレースができるジョッキー」と尊敬のまなざしを送る。しかし、リスペクトはしても、競馬になれば一人のライバル。安田記念でも松山は有力馬パンジャタワーに騎乗する。「どの騎手に対してもそうですけど、絶対に負けたくない」と闘志を燃やす。

 【相棒との出合い】相棒スズハロームは2年前の秋、スワンS(15着)でゲートの前扉が曲がるほどの勢いで突進。昨春以降、2桁着順が続いた。不振にあえぐ中でバトンを引き継いだ藤懸は「競馬に対して少し後ろ向きになっている」とトラウマを感じ取った。「苦しくない競馬」を心がけ、道中リラックスさせる乗り方を徹底。コンビ3戦目の洛陽Sで復活に導くと、前走ダービー卿CTでも目の覚めるような末脚を引き出した。

 この中間も時間が許す限り調教に騎乗。「元気が良すぎて振り落とされないか心配」と苦笑いを浮かべるが、「普段はやんちゃですけど、やる時はやってくれるカッコいい馬」と信頼を寄せる。キャリア18戦目から始まった関係。「もっと早く出合っていれば?」の問いには首を横に振る。「このタイミングで出合えたから良かったんだと思います。馬も僕も若い時だったらうまくいかなかったかもしれません。僕自身、引き出しがある今、向き合えて良かった」。遅咲き同士のベストパートナー。府中の直線で夢を追う。

 【取材後記】藤懸騎手と記者は同い年。誕生日が1カ月しか違わない。競馬とのなれ初めを聞くと、「4つ上の兄貴がプレゼントでもらったダービースタリオンを一緒に遊んだのが始まり。おじいちゃんが競馬好きで、親戚の家で見たテイエムオペラオーの有馬記念(00年)が最初に見た競馬でした」。ちなみに、記者はオペラオーが3着だったダービー(1着アドマイヤベガ)が最古の記憶。チョコボスタリオンを経由して競馬にハマった。ちょっとだけズレているのが面白かった。
 乗馬未経験で競馬学校に入学。騎乗だけでなく、馬の手入れ、馬房掃除など全てが初めての体験だったという。「大変でしたけどやめようと思ったことは1ミリもなかったです。とにかく必死に食らいつく、そんな3年間でした」。デビュー16年目を迎えた今でもガムシャラが似合う、カッコいい33歳。その人柄を知る誰もが大仕事の時を待っている。(田井 秀一)

 ◇藤懸 貴志(ふじかけ・たかし)1993年(平5)2月25日生まれ、長野県大桑村出身の33歳。競馬学校の同期に嶋田純次、杉原誠人、森一馬、横山和生ら。11年3月に栗東・平田修厩舎所属でデビューし、JRA通算4516戦164勝、うち重賞は21年マーメイドS(シャムロックヒル)、今年のダービー卿CT(スズハローム)の2勝。G1初騎乗となった21年オークスは16番人気ハギノピリナを3着に導いた。1メートル55、49キロ。血液型A。

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