【根本康広 我が道10】初騎乗からラジオでダメ出し「この子はジョッキー向きじゃありません」

2026年10月10日 07:00

当時の競馬学校では模擬レースもなく、いきなり本番でした

 両親は私の初騎乗をラジオで応援していました。現在のように1Rから12Rまでテレビで放映されているわけではありません。同じタイミングで大塚栄三郎くんもデビューしました。解説者が「大塚くんはジョッキーとしていい体、いいスタイルですね」と褒めます。その後に「根本くんは背が低くて腰が高くて、ふわふわした乗り方をしていますね。この子はジョッキー向きじゃありません」とはっきり言われました。せっかく初騎乗を楽しみにしていた両親は、ラジオの前でガックリきたらしいです(笑い)。

 それを聞いて「最初から他人の人生を決めつけるようなことを言うなよ」と頭に来ました。今では解説の仕事を任せられることがありますけど、何かを決めつけるような言い方はしません。当時だからそういう解説も許されたんでしょうね。

 ビゼンアカマツと挑んだデビュー戦は14頭立ての12着に終わりました。今の競馬学校の生徒はデビュー前に何度も模擬レースを行います。競馬学校にはちゃんとした元競走馬もいます。そこに先生役として現役騎手がいて、実戦的なアドバイスがもらえます。自分たちの時代はそういった模擬レースの経験もない。いきなり本番でした。

 最初の実戦で思ったのはレースっていうのは「凄く痛い」ということ。前の馬のキックバック(蹴り上げた芝や土が後ろに飛ぶこと)がバシバシと当たるんです。よく馬がキックバックを受けて頭を上げるシーンがありますけど、乗っている人間も痛いものなのだと知りました。厩舎で行う調教ではそんな経験はありませんでしたから。

 その分、先輩騎手は熱心に教えてくれました。教えてもらうというよりはレース後に「何だ、あの乗り方は!」と怒られる感じです。競馬は一人でも危ない乗り方をしているあんちゃん(若手)がいると、他の騎手にも危険が及ぶスポーツ。もし馬群の中に入って引っかかる(馬が前に行きたがる)ようだったら「絶対に左右に手綱を引っ張るな」ときつく言われました。ただ、じっと歯を食いしばって真っすぐ手綱を引っ張ってこいということですね。スペースがないところで技術のない騎手が下手に動くと、他の馬にぶつかって大きな事故になる可能性があります。

 やはり勝つのはなかなか難しいなと感じましたけど、そうやって助言を受けながら少しずつレースの雰囲気には慣れていきました。実戦の流れは乗ってみないと分からない部分が大きかった。そしてデビューから2週後の中山でエドリュウという馬とコンビを組みます。所属する橋本輝雄厩舎の馬でした。馬券好きの両親は浅草か錦糸町の場外馬券売り場で馬券を買っていたみたいです。

 ◇根本 康広(ねもと・やすひろ)1956年(昭31)1月31日生まれ、東京都出身の70歳。77年3月に騎手デビュー。87年日本ダービー(メリーナイス)などG13勝を含め重賞14勝。障害戦でも活躍し、79年にはバローネターフで中山大障害を春秋連覇。JRA通算2633戦235勝。97年に騎手を引退し調教師に転身。98年に開業し通算6420戦218勝。藤田菜七子元騎手ら5人の弟子を育てる。

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