【桜花賞】ソウルスターリング120点!名画を思わせる造形美
2017年4月5日 05:30 ソウルスターリングの青鹿毛の体には欠点が一つだけあります。あまりにも美しすぎる。印象派の名画を思わせるような造形美。全ての部位がしなやかにリンクして完璧なバランスを整えている。しかも、どの部位にも非の打ちどころがない。極上の筋肉をつけた深いトモ(後肢)、トモのパワーを受ける飛節は頑丈な上に絶妙な角度。前肢に目を向けると、流麗に抜けた首差し、滑らかに傾斜した肩、狂いのない膝、球節、管、腱。欠落一つない蹄、適度な肋(あばら)の量…。
ジグソーパズルになぞらえるなら、飛び抜けて優れた各パーツが見事に調和し合っている。神がこしらえたとしか思えない完全無欠な造形。サラブレッドが芸術品だとすれば、歴史に名を残す傑作です。しかも、この作品は生きているから、時とともに色合いを変えていく。
昨年12月の阪神JF時には一つだけ注文をつけました。キ甲(首と背の間の突起部分)の膨らみが小さい。花で言えば、つぼみの段階。成長途上だと指摘しました。ところが、それから4カ月を経て、未発達なキ甲が盛り上がってきた。同時にトモの筋肉も前にせり上がっている。そのため背中が短くなったように映ります。腹は長いままなのに…。長腹短背。名馬像の典型といわれるシルエットに進化しているのです。写真撮影時の背景になっている厩舎の生け垣。阪神JF時にはくすんでいたのが、春を迎えて華やかに色づいている。生け垣の彩りまで馬の成長を比喩しているように映ります。
立ち姿も2歳の暮れとは異なる。阪神JF時は四肢に均等の負重をかけていましたが、今回はほんの少し前肢に体重を乗せている。よりゆとりのある立ち方。気性も4カ月の間で成長したのでしょう。名牝の凜(りん)としたたたずまい。タテガミと尾もとても良く手入れされている。その美しい身だしなみから扱う人の愛情も伝わってきます。貴婦人を描いた名画の造形。神の手と呼ばれたピサロやセザンヌ、ルノワール、モリゾ、モネ、ドガ…印象派の巨匠による作品群のように触れた者の心を奪ってしまう。美しすぎるのは欠点です。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの72歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。