元オーナーの故・近藤氏にアドマイヤマーズの連覇報告を
2020年12月11日 05:30 【競馬人生劇場・平松さとし】2014年11月4日。豪州のホテルの一室にいた私に一本の電話が入った。かけてきたのは栗東・梅田智之調教師。応答した私に、同師は言った。
「オーナーが“ぜひ”と言っているので来てください」
数時間前、かの地で行われたのは南半球最大のレース、メルボルンC(G1)。ここに1番人気に支持されて出走したのが梅田厩舎のアドマイヤラクティだった。しかし、同馬は最下位22着で青息吐息でのフィニッシュ。ゴール入線後、いくらもしないうちに心臓発作で死んでしまった。
この馬のオーナーが近藤利一氏。その晩、メルボルン市内のホテルにあるレストランで残念会が行われ、梅田師を通してその席に呼んでいただけたのだ。
そんな経緯の宴だったので明るいはずはなく、文字通り“お通夜”といった様相。そんな中、近藤オーナーが言った。
「ラクティはレース中に転倒することもなく、最後まで頑張って走り切ってくれた。誰にも迷惑をかけることなく逝った彼を誇りに思う」
この言葉に、本当に馬を愛している人なのだと感じたものである。
それから約5年後の19年11月17日、近藤氏は鬼籍に入った。それから1カ月とたたない12月8日に行われた香港国際競走。その一つである香港マイル(G1)を優勝したのがアドマイヤマーズ。生前の近藤氏がオーナーだった馬である。
「世界的にも有名なオーナーであり、亡くなったのはニュースで知りました。とても残念に思っていただけに、このような形で勝ててうれしかったです」
勝利インタビューでそう語ったのは手綱を取ったフランスのC・スミヨン騎手。このアドマイヤマーズは、今年もスミヨン騎手を背に香港マイルに挑む。折からのコロナ禍で、私も日本からの応援になるが、故人に連覇の報告ができることを祈りたい。ちなみに個人的にはカーインスターとゴールデンシックスティといった地元勢が強力だと予想している。13日、香港・シャティン競馬場に注目しよう。 (フリーライター)