【高松宮記念】ダノンスマッシュ100点 “量より質”優れた筋肉と絶妙角度でトモにリンクする立派な飛節
2021年3月23日 05:30 故友の相馬眼にもかなうスーパーボディーだ。鈴木康弘元調教師(76)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。春のG1開幕戦「第51回高松宮記念」(28日、中京)ではダノンスマッシュ、レシステンシアに満点をつけた。類いまれな相馬眼で“マイネル・コスモ軍団”をけん引した岡田繁幸氏が19日、71歳で死去。故友をしのびつつ、有力候補の馬体を解説する。
馬の資質を見抜く目(相馬眼)を養う方法はあるのか。「たくさんの馬を見ることです」。牧場研修で北海道静内を訪れた若いホースマンに熱弁を振るっていた岡田繁幸氏が亡くなりました。調教師だった私とオーナーブリーダーの彼とは立場も違えば、競馬に対する考え方も異なる。若い頃は互いの情熱をぶつけ合ったものです。静内の居酒屋で口角泡を飛ばして言い争いになった時は一緒に食事をしていた社台ファームの吉田照哉氏と錦岡牧場の土井睦秋氏(故人)が仲裁に入って、カラオケで仲直り。昨晩のことのように思い出されます。
馬の見方は十人十色。日高屈指の相馬眼と言われた繁幸氏は馬体の捉え方も私と異なりますが、“筋肉の質”と“飛節のつくり”にこだわる点は一緒でした。彼がダノンスマッシュの馬体について感想を求められたとしたら…。たぶん私と同じ指摘をするでしょう。一流のスプリンターといえば全身に鎧(よろい)のような分厚い筋肉をつけているものですが、この6歳牡馬の体は相変わらず薄手。そのかわり、とても柔軟な筋肉をつけている。筋肉の量ではなく、質に優れているのです。
他馬との相違点はもう一つ。飛節のつくりです。締まった立派な飛節が絶妙な角度でトモにリンクしている。そのためトモのパワーを余すことなく推進力に換えています。車でいえば、トモはエンジン、飛節はエンジン内のピストン運動を回転エネルギーに変換するクランクシャフト。ダノンスマッシュにはスポーツカー仕様の高性能クランクシャフトが備わっている。
この先は私の独断ですが、顔つきに余裕が読み取れます。昨年の高松宮記念(10着)時には不機嫌そうに後ろに絞っていた耳を左右に開いている。鼻をとがらせて、白眼を出している。過去の顔写真と比べれば違いは一目瞭然。じゃれている時に浮かべる顔です。香港遠征で勝利を挙げ、ゆとりが生まれたのでしょうか。ともあれ、遠征帰りでもアバラがうっすらと浮き出た確かな仕上がりです。
繁幸氏が健在だったら、その相馬眼はダノンスマッシュをどう評価したか…。寂しさを募らせながら筋肉の質と飛節のつくりに秀でた馬体に満点を付けました。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。