藤沢和師 成長愛馬に期待、キングストンボーイで挑む最後の青葉賞

2021年4月21日 05:30

来年2月に引退する藤沢和師

 現役最多のJRA通算1500勝を達成した競馬のレジェンドが現役最後の春に挑む。来年2月末で70歳定年を迎える藤沢和雄調教師(69)。春の東京開幕を前に名伯楽の胸にはどんな思いが去来しているのか。東京競馬へのこだわり、歴代最多4勝を挙げた青葉賞、その先に待ち構えるダービーに対する持論をスポニチ本紙に語った。

 ――今週から春の東京競馬がスタート。藤沢和厩舎にとっては冬場に休養していた管理馬を送り出す大攻勢のシーズン。調教師としての最後の春をどんな心境で迎えるのか。
 「最後の年だと言っても、馬には関係ない。私の定年に合わせて良くなるわけではないし、定年後にも成長していかなければならないから。あまり急がずにやっていきます」

 ――例年と変わらない?
 「春一番をメドに入厩(頭数)を増やし、調教も春一番が吹いてから本格的に始める。このスタイルで毎年やってきた。真冬は気温が下がるだけじゃなく、天候も不安定だからあまり調教できない。ただ、最近は春が短くなったよね。春が来たと思ったら、すぐに暑くなる。寒いか暑いかだよね。暑くなれば調教は十分にできない。馬は暑さに弱く、発汗が多くなるから。そこが以前とは全然違うね。気候を気にしないでやれるのは今の時季しかない」

 ――開業当初から東京コースにこだわってきた。
 「東京にはいろいろな距離のバリエーションがあるから。直線が長い(芝は525・9メートル)から出負けしても挽回するチャンスがある。言い訳できないコースだよね。スピードとスタミナがどの距離でも要求される。ちゃんと調教していなければ走りきれない。ごまかしが利かないコースでいい競馬をしたいよね」

 ――藤沢厩舎には青葉賞からダービーを目指す馬が多く、今年(5月1日)はキングストンボーイ。
 「王道を行くならレイデオロみたいに皐月賞からダービーだけど、間に合わない馬は青葉賞になるよね。早くから権利を取っていれば問題ないけど。それに中山はコースがトリッキーで難しい。気候も難しい。4月上旬に間に合わせるには春一番が吹く前から本格的に(調教を)始めないと。キングストンボーイも皐月賞には間に合わなかった。馬の一生は短いようで長い。それ(春のクラシック)だけが全てじゃない」

 ――「クラシックは競走生活のゴールではない」は藤沢語録の一つ。
 「長い経験でそこ(春のクラシック)に行かなくても大成した馬は多い。シンコウラブリイもタイキシャトル、タイキブリザードもみんな古馬になって大成してくれた。クラシックに行けるものなら行きたいけど」

 ――そこで無理すると…。
 「いや、クラシックを一つの目標に競走馬になったんだから無理とは言えない。ただ、成長が見合わないよね。そのレースを使う時季としては」

 ――その後に影響する?
 「つぶれちゃうね。はっきり言って、いい馬からつぶれますよ。気持ちも体も駄目になりますよ。どれぐらい走る馬なのか、分からないまま終わっちゃう。だから慎重にやらないと。走るかもしれないが、駄目になっちゃうとその馬が本当に走る馬だったのか、答え合わせもできない。ロンドンボーイとか、クエストフォベスト(93年2月、デビュー2連勝後に故障)、ヤマトダマシイ(93年3月のデビュー2戦目に故障)とか、いろいろあったよね」

 ――ダービーは90年から01年まで12年間出走ゼロ。
 「当時はクラシックに出られない外国産馬が多かったからね。バブルガムフェローは(クラシック前に)故障しちゃった。ところが、シンボリクリスエス、ゼンノロブロイはそこをうまくかいくぐった」

 ――シンボリクリスエスについて武豊騎手からシビアな指摘を受けたとか。
 「武豊君がシンボリクリスエスで青葉賞を勝った時に、“先生、この馬は秋に良くなりますよ”って言うんだ。俺は青葉賞の時点で凄く良くなったし、ダービーも勝てるんじゃないかと思っていたんだ。これほど良くても秋なのか、春じゃないのかと。ショックというか、あの言葉は忘れられないね。世の中にはこれよりもっといい馬がいるのかと思った。自分の馬しか見てないと、そうなっちゃう。いい勉強になったよね。秋になったら武君が言った通りに良くなったが、次の年にはもっと良くなっていた。武君の想像以上だった」

 ――キングストンボーイは皐月賞馬エポカドーロの半弟にあたる血統。
 「新馬に下ろした頃は気難しい馬だった。兄のエポカドーロを管理した藤原英(調教師)や田中調教助手に聞いたところ、とても気性が似ていた。何度もいろいろなアドバイスをもらって、それを参考にしながら調教してきた。田中君はわざわざデビュー戦の装鞍所やパドックも見に来てくれて…。暴れているキングストンボーイを見て、“上(エポカドーロ)とやることが同じですよ”って笑っていた。他のお兄ちゃん(ダイワインスパイア、ダイワフェーム、ダイワアンビシャス)に乗ったことがある北村宏も“(半兄も)難しいところがありました”って言っていたよね」

 ――今は暴れない?
 「優等生ですよ。手間ひまかからない、いい馬になった。びっくりするほど変わった。田中君に見せてやりたいぐらい。装鞍所で鞍を置かさせないとか、誘導馬の後をついて馬場に入っていかないとか…似ているお兄ちゃんを手掛けた人のアドバイスは抜群に良かった。アドバイスがあるとないとでは大違い。すごく感謝している。牧場も気をつけてやってくれた。兄弟そろって気が悪くても、血統だから仕方がないで済ませてはいけない。うまくいかないことの方が多いけど、どうにかしようと、いろいろやってみなきゃ」

 ――キングストンボーイはレースぶりも変わった。
 「2戦目でいいかげんな走りをした。騎乗したクリストフ(ルメール)がカンカンに怒ってね。“ちゃんと走れば勝ち負けできるのに、2着はあったのに”って。でも、その次のレースは上手に競馬してあっさり勝った。共同通信杯はダッシュがつかなかったけど、しまいはしっかりしていた。いい競馬だった。このクラスでは二の脚がないとかウイークポイントがあると勝ちきれないが、気候もいいのでピッチを上げていきますよ」

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