失敗乗り越え…世界のユタカ・タケ 9度目大舞台
2021年10月1日 05:30 【競馬人生劇場・平松さとし】凱旋門賞が2日後に迫った。コロナ禍で海を越えるだけでも大変な時期だが、日本からはクロノジェネシスとディープボンドの2頭が挑戦する。
そしてもう1人、忘れてはならないのが武豊騎手だ。騎乗するのはアイルランドの伯楽A・オブライエン調教師が管理するブルーム(牡5)。今年のサンクルー大賞(G1)の勝ち馬だ。
この世界最高峰ともいえる一戦に彼が乗るのは今回が9度目。欧州をベースとしない騎手としては異例の多さで、初騎乗となったのは27年も前。1994年のホワイトマズルだった。「それまで憧れでしかなかった凱旋門賞が、グッと近づいた瞬間でした」
しかし、厳しい現実が待っていた。3番人気の支持を得たものの6着に敗れるとレース後、その騎乗ぶりを地元のメディアに叩かれた。当時を思い起こし、武豊騎手は言う。「日本で実績を上げていると言っても向こうへ行ったら“たかだか20代半ばの東洋から来た若い騎手”という扱いでした。海外での騎乗経験も浅くて“失敗すれば叩かれる立場”なんだと感じました」
一見、落ち込んだり、へこんだりしそうな出来事だったが天才騎手は転んでもただでは起きなかった。「そういう立場にならないようにしようと思い、そのためにはどうすれば良いかと考えました」。その結果、それまで以上に海外での活動を増やした。2000年には米国、01、02年にはフランスに拠点を置いて騎乗したのも名を売りつつ経験を増やし“そういう立場からの脱却”を図る一環だった。
さて、今年も当たり前のように凱旋門賞の出馬表にその名を連ねる武豊騎手。先述した通り、これが9度目の騎乗だが、今回を含めた半数近い4回が欧州馬での参戦となる。今となっては世界が認めた“ユタカ・タケ”の名前を知らないホースマンは、どの国へ行ってもいないだろう。(フリーライター)