【追憶のジャパンC】95年ランド自慢の末脚さく裂 「東京の馬場と芝はきっと合う」鞍上ロバーツ出走進言
2022年11月23日 07:00 1995年のジャパンカップは米国のタークパサーが取り消して14頭立て。1番人気は前年の3冠馬ナリタブライアン。右股関節炎明けで出走した前走の天皇賞・秋は12着。それでもファンは復活を信じた。単勝3・7倍と圧倒的でないとはいえ1番人気。27年前のレースだが、現在から振り返ると情緒的なオッズかもしれない。2番人気がオールカマー、京都大賞典を連勝して健在ぶりを示したヒシアマゾン。3番人気のサンドピットは前年ジャパンC5着。ブラジル出身で同地の芝ダートG1を制覇し、米国に移籍してからもG1勝利を積み重ねたタフホース。
ハナを切ったのはタイキブリザード。「誰も行かないので押し出される形」と岡部幸雄はレース後に語った。実際、位置取りが定まるまで後ろを振り返っているので逃げるつもりではなかったのだろうが、名手がこの事態を想定していなかったはずはない。初距離で、加えて後続のサンドピットやストーニーベイも行きたがらなかったため、岡部は巧みに引きつけての逃げを打って、馬群をひと塊にする。1400メートルを1分25秒8と遅めのタイムで通過して、そこからラップを上げる絶妙のペースメーク。自身の脚は十分に残り、かつやや早めの仕掛け。結果として好位勢はまとめて馬群に沈んだが、その背景には岡部タイキブリザードの玄妙な逃げがあった。
前半は前をスローでふさがれ、残り1000メートルからラップを上げられてタイキブリザードに翻弄(ほんろう)された好位勢の後ろ、中団にじっくりと構えていたのがドイツ馬ランド。鞍上は南アフリカ出身でイギリスを拠点として活躍していたマイケル・ロバーツ。「末脚がいい馬なので、ラストスパートのタイミングだけを考えて乗っていた」。
スローからのロングスパートという流れも、中団で折り合って仕掛けるタイミングをうかがっていたロバーツには好都合だった。ほかの有力差し馬より先んじて仕掛け、直線は末脚比べとなる。「追い比べとなったのは予想通り。ランドの末脚なら負けないと思った」と愛馬への信頼を語った。ランドはジャパンC前の米ブリーダーズCで12着。右後肢の外傷で馬場入りを休み、来日してからも脚元を気遣って軽めのダート調整のみ。仕上がりを不安視されていた。「不安があったが、これだけ状態を回復させてくれたスタッフのおかげだ」とロバーツは関係者を称えた。ロバーツとランドが引き上げてきた検量室ではランド関係者が歓喜。オーナーのオスターマン氏とイエンチ調教師夫人がロバーツに抱きつき、取材で来日していたドイツ競馬専門紙記者はドイツ民謡を踊り出した。
ロバーツは前年の凱旋門賞でランドに初めて騎乗して8着。その際「東京の馬場と芝はランドにきっと合うよ」とイエンチ調教師とオスターマン氏に日本行きを勧め、見事に結果を出した。91年ジャパンCでテリモンに騎乗するため初来日。日本を気に入り、95年から2000年まで毎年、JRA短期免許を取得した日本通だった。
絶妙な運びで粘ったタイキブリザードだが、ランドにかわされ、さらにヒシアマゾンとエルナンドに迫られてゴール前で力尽きて4着。ヒシアマゾンは、ゲート入りでサンドピットがごねたため長く待たされたのを嫌って出遅れ。最後方から腹をくくって直線勝負に懸け、激しい2着争いを制した。中舘英二は「直線を向いた時は前をつかまえられると思ったが、ランドがまた伸びた。それでもアマゾンは本当によく走ったよ」とねぎらった。日本馬の牝馬2着は当時のジャパンC最先着。1番人気ナリタブライアンは直線伸びず6着。武豊は「気合乗りは良かったが、思ったほど伸びなかった」と語った。