【書く書くしかじか】ルーキー小林美駒が愛される理由
2023年3月29日 10:00 ▼日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の鈴木悠貴(31)が担当。同期の河原田とともに現役5、6人目の女性騎手として、今月デビューを果たした小林美駒(18)にスポットを当てる。ここまで美浦新人最多30戦に騎乗する“人気者”。競馬界で愛される理由に迫った。
一流選手には人を引きつける魅力がある。WBCでMVPを獲得した大谷が、まさにそうだ。大会中の彼の表情や言葉に、何人の日本人がくぎ付けになったことか。競馬界にも、そんな魅力を兼ね備えたスター候補が今月デビューした。藤田菜七子以来、美浦7年ぶりの新人女性ジョッキー・小林美駒だ。
馬に乗ることが大好きで、感情豊かな18歳。競馬学校での模擬レース終了後、「よく頑張ってくれたね。ありがとう!」と馬に抱きついていた姿が印象的だ。デビュー日の3月4日、中山12Rで僅差の3着に入ったときは「勝ったかな、と思ったんですけどね。自分の力不足です。でも本当に楽しかった」と前のめり。競馬を心から楽しむ姿は、今後もファンの心を揺さぶるだろう。
大谷のように、コミュニケーション能力も高くサービス精神も旺盛。どんな質問に対しても、記者の目を見てすかさず返答してくれる。驚いたのは競馬学校の卒業式。初めての囲み取材に戸惑う新人ジョッキーがいる中でも堂々としたもの。「今村聖奈さんを超えます」とファンも新聞社も喜ぶ“言葉”を選んでくれた。最後には「お忙しい中、取材していただきありがとうございました。またよろしくお願いします」と記者に一礼。新人らしからぬ落ち着きに、スターの素質を垣間見た。
“対応力”に救われたことがある。3月2日の美浦トレセン取材でのこと。デビューへの意気込みを聞こうと、各社が小林美の元へ。しかし、午後に予定があり時間がないことを知らされ、帰ろうとすると「明日なら空いているんですけど、明日じゃダメ…ですもんね新聞は。今話しますよ」とひと言。少しの間、足を止め話をしてくれた。
そんな愛嬌(あいきょう)たっぷりの性格もあって、美浦トレセンでは既に大人気。歩くたびに、さまざまな厩舎のスタッフから「美駒、先週は惜しかったな」「美駒、オレの馬よろしく頼むな」と声をかけられるほど。みんなに愛される関東期待のルーキーは、ここまで30回騎乗して2着1回、3着2回。初勝利は時間の問題だ。ファン人気の高い、日本のスター騎手になる日も、そう遠くない。
◇鈴木 悠貴(すずき・ゆうき)1991年(平3)4月17日生まれ、埼玉県出身の31歳。千葉大法経学部卒。今年1月から競馬担当。