【安田記念】ロマンチックウォリアーG1通算8勝!でも種牡馬の道はなし 香港の馬事情を解説

2024年6月2日 15:48

<安田記念>マクドナルド騎乗のロマンチックウォリアー(撮影・河野 光希)

 春の最強マイラー決定戦「安田記念」は香港から参戦した1番人気ロマンチックウォリアー(セン6=シャム)が制し、G1通算8勝目をマーク。06年ブリッシュラック(香港)以来、18年ぶりに外国馬が頂点に立った。

 近年は春と暮れの香港国際G1レースの馬券をJRAでも発売しているため、競馬ファンならほとんど知っているが、香港競馬に出走するサラブレッドはほとんどがセン馬、去勢された馬だ。

 牡馬と牝馬もいることはいるが、年度にもよるが合わせて2~3%ほど。インディジェナス、フェアリーキングプローン、サイレントウィットネス、ブリッシュラックなど日本に遠征して活躍した香港馬は全てセン馬だった。

 香港は馬産の拠点がなく、年間の競走用サラブレッドの生産頭数はゼロ。これは純粋に、牧場のような大きな施設をつくる土地の余裕がないため。香港競馬の所属馬は全て輸入された馬となる。つまり生まれた牧場に帰って父、あるいは母となる習慣がないため、去勢により血をつなげられなくなってもデメリットが少ない。

 以前、香港競馬の関係者に去勢について聞くと「セン馬の扱いやすさ」、「身体的な柔軟性の向上」や「セン馬の競走可能期間の長さ」などメリットを挙げたあと、「むしろ、日本の馬はどうして去勢しないのか?種牡馬入りの可能性がほとんどない馬も多くが牡馬で走っているのはなぜか?その利点は?」と問われた。なぜ去勢するかも何も、香港競馬では去勢している方が当然と言える。

 近代競馬は世代頂点を決めるレース(ダービー)を根幹として、血統の継承を重ねる中で発展してきた。世代間の競走や異なる世代の競走というめまぐるしく競走相手が変わるシステムと、活躍馬が次の活躍馬を出すという多世代にわたる時間的な展開を合わせた構造となっている。

 そのため、英ダービーや日本ダービーのように、繁殖機能を失って血をつなげられないセン馬が出られない大レースも設定されている(ケンタッキーダービーはセン馬の出走可)。一方で香港競馬は、そういったクラシカルな競馬とは論理が異なる。走るために生まれ、生きている限りは走る純アスリートによる、一代限りのエンターテインメントなのだ。

 欧米日の競馬ファンには「牝系のファン」、「曽祖母から見てきた」などの息の長いファンが生まれる土壌がある一方、香港競馬におけるファンの瞬間的な熱狂は近代競馬の祖国である宗主国の競馬を上回るものがある。

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