“九州産馬の父”本田土寿さんの開拓精神 育成場「高森ヒルズ」完成 評判も上々
2024年7月3日 05:30 まだ梅雨は明けないが福島、小倉競馬が始まり、本格的なサマーシーズンが到来。水曜付の新企画「夏は自由研Q」第2弾は若手を抑え、大阪本社のオサム(59)が名乗りを上げた。今春のJ・G1中山グランドジャンプで九州産馬イロゴトシが連覇を達成し、九州の生産者が活気づいている。その最前線を走る“九州産馬の父”本田土寿さん(63)を福岡県出身の九州男児オサムが直撃。夢を語ってもらった。
九州産として初めてJ・G1を勝ったイロゴトシ(23&24年中山グランドジャンプ連覇)。生産者としては21年北九州記念を制したヨカヨカから2年、空けずに訪れた快挙だ。「勝った瞬間は1分間ぐらい、がん泣きやった」と本田さんは笑って振り返ったが、勝利の余韻もそこそこ。話題は未来へと向けられた。
「阿蘇の根子岳(ねこだけ)の横ですね。標高が830メートルあって自然の形を利用した起伏がある。ここで育った馬たちは相当強くなるんやなかろうかと」
22年に開場した育成場「高森ヒルズ」のことだ。本田牧場は熊本空港から車で5分ほどの場所にあるが、南阿蘇村に新たに分場が完成。13ヘクタールの規模を誇り、23年から当歳馬の育成が始まった。今年、九州産の1歳市場に上場された馬たちは高森で鍛えられた第1期生。評判も上々だ。
「おかげさまで運動量は足りている。よく動いていると思います。できるだけ早い時期から、ある程度の起伏のあるところで動かせたい。放牧地も2面、造りました」
施設拡大の目的のみならず、南阿蘇村の立地条件が馬の強さに直結すると本田さんは展望する。
「ぼちぼち高森ヒルズの近所に坂路コースを造り始めています。標高が高いけん、心肺機能が鍛えられるんじゃなかろうかと。まだ直線は500~600メートルぐらいしかなかですが、そこから山を上がると1000メートルぐらいになる。馬も標高が500メートルを超えると高地トレーニングの効果があると本で読みました。昔、ミスターシービー(83年クラシック3冠制覇)を育成した千明(ちぎら)牧場(群馬県片品村)が標高740メートルとのこと。ここはそこより100メートル高かけんですね」
将来は育成をメインにしたいと本田さんは話す。本田牧場は家族3人と5人のスタッフで運営。北海道の大牧場とは比べものにならないが、生産馬の活躍により「(働きたいという)オファーも結構あります」と言うから、牧場自体の規模も徐々に大きくなりそうだ。繁殖牝馬も増え、20頭を超えた。今月にはイロゴトシの半妹イロエンピツも繁殖入りを予定している。
最後に夢を語ってもらった。JRAの平地G1、クラシック。そんな言葉が聞けるかと思ったが…。
「まずはどの馬も一つ勝つことがスタート。そこから夢が広がっていくと思うとりますけん。開拓精神ですね。いろいろ投資して自分なりに原野を開拓し、木を切って草を植え、牧柵を建てたり、ユンボ(建設機械)に乗ったりしてコツコツやりようとです」
地に足が着いている。九州産に懸ける情熱は日々、流れ落ちる汗から生まれるものだった。
▽九州産馬 文字通り、九州で生産された競走馬のこと。ジャパン・スタッドブック・インターナショナルによると昨年、日本で生まれたサラブレッドは7796頭。そのうち7630頭が北海道産で本州の馬産地は青森県65頭、宮城県1頭、栃木県7頭、茨城県5頭となっている。九州産は熊本県31頭、宮崎県19頭、鹿児島県38頭の計88頭で、わずか1・1%に過ぎない。元々、南九州は馬産が盛んだったが戦後は北海道が中心となり規模が縮小。それでも九州産の復興を目指し、有志の牧場が生産を続けている。現在は北海道で種付けし、九州の牧場で出産するケースも多い。
◇本田 土寿(ほんだ・つちとし)1961年(昭36)1月31日生まれ、熊本県出身の63歳。農家に生まれ、20代でサラブレッドの生産を始める。いったん牧場を手放すが05年、自身の生産馬によるJRA初勝利(マイネルマリクで未勝利勝ち、次走の荒尾重賞たんぽぽ賞を含む計3勝)を機に現在の熊本市東区戸島町に本田牧場を開場。主な生産馬にイロゴトシ(23&24年中山グランドジャンプ連覇)、ヨカヨカ(21年北九州記念勝ち)など。先週、小倉で生産馬ケイテンアイジンが新馬勝ちを収めた。
【取材後記】一番、会いたかった人にようやく会えた。火の国・熊本の女性は情熱的だと言うが男性も情熱的だ。本田さんの“九州産馬愛”に圧倒された。63歳だが見た目から若い。日々、力仕事に精を出しているだけに胸板は分厚く、ごつい。「僕も今年で定年なので」と身の上話をすると「まだ若か。これからたい!」とドンと背中を押された。定年後には潔く記者の職を離れ、九州の牧場で働くのもいいかと思った。雇ってくれるか、の話だが…。 (オサム)
《種牡馬も充実》夏の小倉名物・九州産限定戦が先週スタートした。土曜に9馬身差で新馬勝ちのエイヨーアメジスト(牝=牧田)、日曜に永島騎乗で新馬戦1番人気に応えたケイテンアイジン(牡=谷)は、ともに本田牧場でけい養されているアレスバローズの産駒。本田牧場には他にコパノチャーリー、ロードバリオスといった種牡馬がいるが昨春からアールスター(20年小倉記念を含む4勝)がラインアップに加わった。「うちの牧場でも今年2頭の産駒が生まれました。なかなかいい子ですよ」と本田さんは目を細めている。