【追憶の秋華賞】09年レッドディザイア 背水の陣からの3冠阻止 “非常識な調教”で大逆襲
2025年10月15日 06:45 秋華賞は牝馬3冠最終戦。3冠を達成して歓喜の瞬間が訪れる年もあれば、3冠を目前にしながら快挙を阻まれる年もある。今回は3冠ならなかった年を取り上げたい。
09年牝馬クラシック戦線はブエナビスタが主軸だった。桜花賞では単勝1.2倍に支持され、18頭立ての4角16番手から豪快に差し切った。オークスでは4角14番手。いったん、内へと馬を向けようとして外へと切り返すロスがありながら、最後の1完歩で差し切って2冠を手にした。
いずれのG1も2着はレッドディザイアだった。最終決戦こそ何とかしたい。迎えた秋初戦のローズS。10キロ増の充実した馬体。松永幹夫師は自信を持って挑んだが、先に抜け出したブロードストリートに首差、及ばなかった。
これは陣営にはショックだった。これまでブエナビスタにしか負けたことがなかったが、ブエナビスタのいない前哨戦で2着では打倒ブエナどころではなくなる。陣営は追い込まれた。
10月14日、秋華賞の最終追い切り。レッドディザイア陣営は秘策を敢行した。坂路で、これでもかと負荷をかけた。
パートナーを2秒近くも先行させた。序盤からピッチを上げたレッドディザイア。2ハロン目にもう11秒8を刻み、3馬身差まで接近する。最後は脚が上がりつつも、2馬身差をつけて、半ば強引にねじ伏せた。
ラスト1ハロンは12秒6。ラストに速いタイムを持ってくることが常識の坂路にあって、道中にトップスピードを刻む非常識なラップとなった。だが松永幹夫師は満足そうだった。「しっかり負荷をかけられた。コースでも長めに乗ってきている。調教で動きすぎて難しい部分があったが、これならいい。自信があります」
やれば動く馬だけに、これまでは気を使いながら追ってきた。今回は、調教の常識に逆らっても、極限を追い求めた。追い詰められたからこそ、抜くことができた究極の一太刀だった。
秋華賞当日。馬体重はローズSから14キロ減。もちろん想定内だ。スタートを決め、中団で流れに乗る。直線を向き、イン3頭目を四位洋文騎手(現調教師)が巧みにさばいた。
「よーし」。スタンドで松永幹夫師が声を上げる。宿敵ブエナビスタは4角で内に包まれ、動くタイミングを失っていた。
極限まで磨き上げたレッドディザイアの決め手がうなりを上げた。残り200メートルで先頭。四位騎手の左ムチに応えて伸びた。ブエナビスタが迫る。だが踏ん張る。ゴール前、レッドディザイアが鼻差、踏ん張り抜いていた。
その後、審議の結果、ブエナビスタは4角で外へ持ち出す際、後続のブロードストリートの走行を妨害したとして、3着降着となった。
「スタッフがこん身の仕上げをしてくれた。いい形でバトンを渡されたので、あとは自分が誘導するだけだった。強気に、攻めの騎乗をしようと思っていた。馬もそれに応えてくれた」(四位騎手)
調教も強気に、レースも強気に。恐れることなく前に出た結果、王者をノックアウトした。松永幹夫師にとっては、これが記念すべき初G1制覇。「前走で負けたから、今回は調教をしっかりとやれた。スタッフ全員がよくやってくれた」。何物にも代えがたい経験をレッドディザイアから受け取った。