青木師の揺るぎない自信の裏にある“流儀” 「下りのエスカレーターを逆走している感じ」
2026年9月2日 05:15 日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の鳥谷越明(57)が担当。熱い言動で美浦トレセンでも独特の存在感を見せている青木孝文師(44)にスポットライトを当て、調教師としての流儀に迫った。
とある美浦トレセンでのワンシーン。調教スタンド前のベンチで数人の記者と談笑していた青木師が、調教師の仕事をこう例えた。
「下りのエスカレーターを逆走している感じ」
一瞬、意味が分からずにきょとんとした記者たちに青木師は「現実には絶対にやっちゃいけない行為ですよ」と前置きして、その意味を説明してくれた。
「上に行くには相当、一生懸命に歩かないと進めないでしょ?歩みを止めたら下がっていく。毎年、若い調教師がどんどん出てくるわけだし、努力しなければ現状維持も難しいんです」
調教時間中には多くの関係者から声をかけられ、大きな声であいさつを返すエネルギッシュな青木師。そして印象的なのが、若手騎手に積極的にアドバイスを送っているシーンを頻繁に見かけることだ。「言わずにいられないんです。言った後に葛藤はありますよ。“オレはそんなに偉いのか?”と」と笑うが、こうして熱く指導してくれる先輩がいるのは若者には幸せなこと。そう気付くのは、後になってからだろうが。
今年で開業10年目。昨年は自身最多の19勝&獲得賞金も最多だったが、今年は8月を終えて3勝にとどまっている。それでも「低空飛行ですけど、自分がダメだとは1ミリも思っていないです」ときっぱり。その理由は「出走回数は美浦で一番ですから。そこだけは負けたくないので」。結果がひと息でも、自分のできることは全てやっている。従業員の生活を含め、厩舎のマネジメントはしっかりできている。その揺るぎない自信が表情に表れている。
青木師には肝に銘じている言葉もある。「一喜はしても一憂はしない」。調教師になる前に助手として最後に師事した小桧山元調教師からかけられた言葉だという。「競馬でうまくいかない時のストレスとか怒りとか、そんなものは競馬場に置いてくればいい。すぐ次の週が来るということです」。この前向きさ、切り替えの早さも調教師という仕事には大切なのだろう。
冒頭の「下りのエスカレーター…」だが、自分で考えたのではなく元ネタがあると明かしてくれた。サーフィスという男性2人組ユニットの「WAIT!」という曲の一節。「好きなアーティストなんですが、そのフレーズだけが凄く印象に残ったんです。まさにオレたちの世界だなと」
人とのつながりを大切に、信念を持ってひたすら努力を続ける熱血漢は23日で45歳。「50歳の自分に、何で45歳のしんどい時に踏ん張らなかった?と思わせたくない」。同郷人として応援せずにはいられない。
◇青木 孝文(あおき・たかふみ)1981年(昭56)9月23日生まれ、群馬県出身の44歳。04年10月から美浦・成島英春厩舎で厩務員。05年4月から美浦・伊藤正徳厩舎で厩務員、11年5月から同厩舎で調教助手。14年4月から美浦・小桧山悟厩舎で調教助手。16年に調教師免許を取得、翌17年3月に厩舎開業。JRA通算2574戦108勝。主な管理馬はマイネルグロン(23年中山大障害)。
◇鳥谷越 明(とりやこし・あきら)1969年(昭44)7月9日生まれ、群馬県出身の57歳。93年入社。99年からレース部中央競馬担当。02~19年に東京本社予想を担当。20年からレース部長を務め、25年10月に中央競馬担当に復帰した。
