グランプリボスに「恩返し」矢作師世界を“圧巻”

2021年5月7日 05:30

2011年NHKマイルCを勝ったグランプリボス(栗東・矢作芳人厩舎)

 【競馬人生劇場・平松さとし】今週末、東京競馬場ではNHKマイルC(G1)が行われる。ちょうど10年前の2011年、このレースを勝ったのはグランプリボス(栗東・矢作芳人厩舎)だった。同馬は前年、朝日杯フューチュリティS(G1)を制し、当日も1番人気だったのだから、勝利したこと自体は何も驚くべきことではなかった。

 驚かされたのはレースの後。すぐ後に英国へ遠征すると、ロイヤルアスコット開催の3歳馬によるマイルのNo.1決定戦セントジェームズパレスS(G1)に果敢に挑んだのだ。当時、現地を訪ね、この挑戦の意味を問うと矢作師は次のように答えた。

 「NHKマイルCで良い競馬をしたらここに挑むというのはずっと前から考えていました。3歳のマイル王なら自然な路線だと思いますから」

 後に世界を席巻する伯楽が、当時から国境など考えずに、世界中を視野に入れて馬にとってベストと思える道を模索していたことがよく分かる言葉だと感じたものだ。

 しかし、結果は厳しい現実が立ちはだかった。この時点で7戦全勝となったフランケルに返り討ちにされブービーの8着に敗れてしまったのだ。

 「約2週間前に熱発したNHKマイルCよりむしろ順調にいっていただけにショックです」

 矢作師はそう言うとしばらく言葉を失った。

 一方、フランケルのH・セシル調教師(故人)に日本馬の印象を問うと、彼は小首をかしげた後、言った。

 「申し訳ないけど見ていなかった」

 自分の馬で精いっぱいだったともとれるセリフだが、日本の3歳マイル王陣営としては悔しさを増幅させる返答だった。再び口を開いた矢作師は言った。

 「今は悔しいだけだけど、ここで挑戦を終わらせないことでグランプリボスに恩返しをしたいです」

 あれから10年、リアルスティールやリスグラシューなど、今では海外の陣営も矢作師が送り込む馬を軽視できないだろう。今春の香港QE2を制したラヴズオンリーユーも秋には再び海外の噂がある。応援したい。(フリーライター)

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