【書く書くしかじか】香港競馬史に残る名馬たちにシビれたチャンピオンズデー
2023年5月10日 10:10 ▼日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。先月、香港に出張した大阪本社・新谷尚太(46)がチャンピオンズデー(4月30日、シャティン競馬場)を振り返る。
関西空港から香港まで飛行機に乗ってしまえば4時間ちょっと。昼食をいただき、うとうとしていれば着くくらいの距離だが今まで行く機会がなかった。自身初の香港出張は収穫たっぷり。いつもと違う場所で取材するのは新鮮だった。
チャンピオンズデー当日は1R発走前から、お祭りムード。ケリー・チャン、アンソン・ローといった地元の人気歌手がパドックに姿を見せるとファンは大盛り上がり。レースが始まれば場内の熱気が一段と高まった。5Rに組まれたチェアマンズスプリントプライズでG1がスタート。香港の短距離路線はとにかく層が厚い。ラッキースワイネス、ウェリントンなどトップクラスのスプリンターは筋骨隆々。私自身、パドック派でもあり、ボリューム感あふれる体つきに目がくぎ付けになった。現地のオッズで単勝1・2倍の断然1番人気に支持されたラッキースワイネスは別格の強さ。道中2番手から早め先頭で、あっさり押し切った。今後は予備登録を済ませていた安田記念での日本遠征を見送って休養を挟み、来シーズン(香港は9月に開幕)に備える、とのこと。芝の世界最高賞金レースとして知られるオーストラリアのジ・エベレスト(10月14日、ランドウィック)参戦プランもあり、動向が注目される存在だ。
JRAの馬券発売はなかったが7R・チャンピオンズマイルも見応えがあった。香港マイルの活躍などで日本でもおなじみのゴールデンシックスティが史上初の3連覇を達成。今年に入って3連勝と7歳でも衰えは一切なし。3連覇が懸かった昨年12月の香港マイルはカリフォルニアスパングルの2着に敗れたこともあり、来シーズンはそこが最大の目標になりそうだ。
メインの8R・クイーンエリザベス2世Cは日本馬3頭が出走。ここも地元の断然1番人気ロマンチックウォリアーが快勝した。日本馬はプログノーシスが最先着の2着。栗東から香港に来て、なかなか環境になじめず到着直後に体を減らした経緯がある。それでも日に日に調子を上げ、レース当日を迎えた。不向きな展開でもあり、2馬身届かなかったが、元々体質が弱く、陣営が手塩にかけて育てた素質馬がようやく開花しつつある。帰国後の走りが楽しみになった。
ロマンチックウォリアーを管理するシャム師はレース後に「天皇賞・秋(10月29日、東京)を視野に入れている」と日本遠征のプランを明かした。外国調教馬が参戦すれば同レースでは初めてのこと。昨年、東京競馬場に「国際厩舎」が完成し、受け入れ準備は整っている。あれだけの実力馬が日本の芝中距離路線のトップクラスと激突すると想像しただけでワクワクする。態勢が整えば是非、来日してもらいたい。
こうしてチャンピオンズデーが終了。帰り際、地元ファンに声をかけると「今日G1を勝った3頭は香港の歴史に残る名馬。生で見られたのは素晴らしいことだよ」と返ってきた。確かに、こんなチャンスはなかなかない。日本馬の勝ち原稿を書くことはできなかったが、それは次の機会に。改めて競馬の面白さを感じる出張になった。
◇新谷 尚太(しんたに・しょうた)1977年(昭52)4月26日生まれ、大阪府出身の46歳。18年5月から園田競馬を担当、同年10月に中央競馬担当にコンバート。前職は専門紙「競馬ニホン」の時計班。印象に残っている香港馬はスペシャルウィークが勝った99年ジャパンCで12番人気2着に力走したインディジェナス。