【書く書くしかじか】ディープに稽古つけた池江助手 心躍る孫世代の活躍
2023年5月24日 10:00 ▼日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は栗東取材班の坂田高浩(38)が担当。かつて池江泰郎厩舎でブラックタイド、ディープインパクトの調教役を務めた池江敏行助手(60)に話を聞いた。ディープインパクトの05年ダービー制覇から18年、その血は孫の世代に継承されている。27年6月の定年まで残り4年となった自身のことについても語ってもらった。
今年のダービーはディープインパクト産駒がいない。初年度産駒が出走した11年から12年連続で出走したが、ラストクロップの現3歳世代の出走はなく、ついに途切れた。いま一度、振り返ると、すさまじい成績を残している。12年ディープブリランテをはじめ、13年キズナ、16年マカヒキ、18年ワグネリアン、19年ロジャーバローズ、20年コントレイル、21年シャフリヤールと種牡馬別最多のダービー7勝。池江泰郎厩舎にいた現役時代のディープインパクトに稽古をつけていた池江助手は「現役でも最強、種牡馬になっても最強。関わっていただけで幸せでした」としみじみ。最強のDNAはサトノダイヤモンド(ダービー出走の産駒にサトノグランツ)、シルバーステート(同ショウナンバシット、メタルスピード)など後継種牡馬を通じて孫の世代に継承されている。
今年はキタサンブラック産駒ソールオリエンスやスキルヴィングが人気を集める。父の父ブラックタイドはディープインパクトの1歳上の全兄であり、池江助手が調教で関わった2頭が祖父に名を連ねている。兄弟でも性格が「両極端」と言うほど異なり、現役時の印象も違うようだ。ディープインパクトが「走るのが大好き。ずっと走りたくて、みんな俺について来いよって感じ。優しくてディープちゃんっていう雰囲気」という性格に対し、ブラックタイドは「負けたくないって感じで走っていた。根性の塊。触りに行っても、この野郎!って言われそう。気性が勝ったタイプで、それが競馬に生きていた」。付け加えるようにブラックタイドについては「悪いイメージ」と苦笑い。03年、まだ2歳の頃の調教初日に池江助手は大ケガをした。「急に真後ろにひっくり返って…。首にしがみついたまま下敷きになり、全身打撲で右側の肋骨はほとんどヒビが入ってしまい息できなくなった。やんちゃだったな」。そんな忘れられない兄もキタサンブラックという大物を出した。「やっぱり何か持っていたんだろうね。持っていないと出てこないよ」と目を細める。孫世代の活躍には「血をずっとつなげていってほしい。孫でも、ひ孫でも。また出たよ、また出てくるよってね」とエールを送った。
現在、高野厩舎に所属する池江助手は馬にまたがっていない。13年に調教中の事故で右膝を粉砕骨折し、職場復帰するまでに約2年半もの時間を要した。「骨がバラバラになって神経が切れてしまい、体が不自由になった」。退職も考えた時に高野師の言葉が支えになり、リハビリを耐え抜く活力になった。「(松葉)つえさえ取ってもらえれば、仕事は何でもあります。定年まで面倒見ます!って言ってくれて。泣きました」。指揮官の情熱に心を打たれ「もう頑張るしかない」という一心で松葉づえなしで動けるまでに回復。厩舎作業は自身ができることをして貢献している。「本当にいい先生に出会えて良かった。定年まであと4年、頑張れそうです」と感謝した。
バリバリ馬に乗っていた頃から池江助手は変わっていない。厩舎にダービー出走馬がいても、いなくても心が躍る。ホースマンとしての誇りとやりがいを感じながら、今年のダービーウイークも仕事と向き合っている。 (坂田 高浩)
◇池江 敏行(いけえ・としゆき)1962年(昭37)6月18日生まれ、大分県出身の60歳。叔父・池江泰郎氏(元調教師、本紙評論家)の下で調教助手を務め、メジロマックイーンやステイゴールド、ディープインパクトなど数多くの重賞馬に稽古をつけた。11年2月末の池江泰郎厩舎解散後は高野厩舎のスタッフ。
◇坂田 高浩(さかた・たかひろ)1984年(昭59)11月5日生まれ、三重県出身の38歳。07年入社で09年4月から16年3月まで中央競馬担当。その後6年半、写真映像部で経験を積み、昨年10月から再び競馬担当に。