【天皇賞・秋】イクイノックス 最強証明 11年ぶり天覧競馬で世界最速1分55秒2 驚きの秋天連覇
2023年10月30日 05:30 世界一の馬が、世界一のタイムで駆け抜けた。11年ぶりの天覧競馬となった「第168回天皇賞・秋」が29日、東京競馬場で行われ、1番人気イクイノックスがトーセンジョーダンのレコードを0秒9も更新する1分55秒2で勝利。G1出走機会5連勝を飾り、シンボリクリスエス、アーモンドアイに続く史上3頭目の天皇賞・秋連覇。JRA獲得賞金は12億5000万円を超え歴代10位。鞍上のクリストフ・ルメール(44)は天皇賞・秋連覇で5勝目。今年の春秋連覇を含め令和の天皇賞は9回のうち6勝を占めた。
秋晴れの府中が2度、どよめいた。イクイノックスが先頭でゴールを駆けた十数秒後、モニターに赤字で映し出された「レコード」の4文字。“世界最速”の1分55秒2に、ルメールも驚きを隠せなかった。「彼の跳びは凄く大きい。全然力を使ってないから普通のペースに感じます。タイムを見た時は本当に驚きましたね」。真の天才は、名手の感覚をも狂わせた。
快速ジャックドールが強気につくった前半5F57秒7のハイペース。イクイノックスは“普通”に3番手を追走する。馬なりのまま、残り400メートル付近で先頭へ。激流のはずだが、鞍上はスローペースのように追いだしを待っている。先行した馬たちが急失速する中、イクイノックスだけは止まらない。ラストは後方で展開の利を受けた馬たちが迫るが、2馬身半のセーフティーリードを保ってゴール。他陣営が絶望さえ覚える強さだった。ルメールは「スクリーンを見た時に3、4馬身の差があったけど、イクイノックスは全然疲れてなかった。ドバイで勝ってスターになったけど、これで世界のスーパースターになった」と相棒への賛辞を惜しまなかった。
木村師は「馬場状態を見て、どの馬が勝っても高速決着になると思っていた」としたが、後半5Fは前半よりさらに0秒2速い57秒5という常識外のラップだ。トーセンジョーダンの1分56秒1、アーモンドアイの1分56秒2を楽々と超越。それでも、同師は「イクイノックスが凄いというよりは、全出走馬の“天皇賞を勝つんだ”というエネルギーがレコードにつながったと思う」と説明。強敵たちとの激闘が、説明不可能な好時計を生み出した。
これで同じ勝負服のアーモンドアイに並ぶG15連勝。希代の名牝の主戦も務めた鞍上は「アーモンドアイはほとんど完璧な馬だったけど、イクイノックスも完璧。スタートを決めて、冷静で、いい脚を使って、有馬記念を勝ったようなスタミナもある」と絶賛する。天皇賞・秋連覇は19、20年のアーモンドアイに続く史上3頭目の偉業。名手は「(2頭が勝負したら)どっちが勝つかは分からないけどね」といたずらっぽく笑った。
視線の先には秋古馬3冠で唯一、手にしていないジャパンC(11月26日、東京)。今年の牝馬3冠を達成したリバティアイランドとの初対戦が実現するかもしれない。ルメールは「リスペクトしないといけない相手。めちゃくちゃマークしたい。でも、勝つ自信があります」と力強く宣言。同期のダービー馬に借りを返し、次は現役最強牝馬を撃破へ。日本で世界一の走りを堪能できるぜいたくな秋だ。
≪ノーザンF強すぎる 秋天は6年連続勝利≫生産牧場のノーザンファームはヴィクトリアマイル(ソングライン)からJRA・G19連勝。天皇賞・秋は18年レイデオロから6年連続勝利で、通算10勝目。吉田勝己ノーザンファーム代表は成長を実感。「時計を見て驚きました。恐ろしい。下見所で見て、馬がさらに良くなっていると感じました。これ以上があるのかと…」。レースを振り返って「凄いペース。前半57秒7で、後半は57秒5。ありえないですよ。常識から外れています」と驚きを隠さなかった。
≪シルクRまた連覇≫シルクレーシングは19、20年のアーモンドアイに続き2頭目の連覇。天皇賞・秋は通算4勝目。米本昌史代表は「後から時計を見てびっくり。競馬法100周年記念で御行幸啓を賜ったレースでレコード勝利。記憶に残るレースを勝てて、本当に幸せなことだと思います」と喜んだ。
イクイノックス 父キタサンブラック 母シャトーブランシュ(母の父キングヘイロー)19年3月23日生まれ 牡4歳 美浦・木村厩舎所属 馬主・シルクレーシング 生産者・北海道安平町のノーザンファーム 戦績9戦7勝(海外1戦1勝、重賞6勝目うちG15勝目) 総獲得賞金17億1158万2100円。馬名の由来は英語で「昼と夜の長さがほぼ等しくなる時。春分・秋分」。