“決して諦めない”中内田師に期待

2020年9月18日 05:30

エンパイアメーカーの記事が掲載された新聞を手にする中内田現調教師(03年撮影・平松さとし)

 【競馬人生劇場・平松さとし】2003年の話だ。その3~4年前に欧州で知り合い、前年には米国のシカゴで再会した青年にまた会うため、私は米国・西海岸へ飛んだ。

 青年は現地で“ミツ”と呼ばれていた。現在、JRAで開業する中内田充正調教師だ。当時、彼はまだ24歳。後にフランケルの馬名の由来となる伯楽ロバート・フランケル調教師の下でライダー(日本流に言うと調教助手)をしていた。朝は4時半に起き、12、13頭の調教をつける毎日。01年に厩舎で働きだした頃は、G1はもちろん重賞に出るような馬に乗らせてもらえなかったが、この頃にはG1馬にまたがるのも当たり前になっていた。

 そんな時、出合ったのがエンパイアメーカーだった。ケンタッキーダービーで1番人気に支持されたこの馬に毎朝、またがった。しかし、結果は残念ながらファニーサイドの2着。責任を感じた日本人ライダーに、しかしフランケル調教師は何も言わなかった。それどころか以前同様、乗せ続けた。

 「誰が乗っても止まってしまう癖のある馬でした。僕も最初は止まられたけど、あえて叩かないようにするなど工夫するうちに止まらずに動いてくれるようになりました。ボス(フランケル調教師)はそのあたりを見てくれていたのだと思います」

 ダービーの次走として出走したベルモントS(G1)ではファニーサイドに雪辱。見事に優勝してみせた。中内田青年は当時、上映された映画シービスケットの中のセリフを引用し、気持ちを次のように語った。

 「“傷ついて、どれだけ絶望的な状況になっても、決して諦めてはいけない”。そういう気分でした」

 中内田調教師は今週末に行われるローズS(G2)にクラヴァシュドールとリアアメリアの2頭を出走させる予定でいる。春の牝馬2冠、すなわち桜花賞(G1)とオークス(G1)ではデアリングタクトの前に敗れた2頭だが、指揮官は“決して諦めていない”だろう。エンパイアメーカーのように3冠最後での雪辱を期して、秋の好スタートを切ることを期待したい。 (フリーライター)

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