【追憶の秋華賞】02年ファインモーション異次元V 名伯楽が育て名手が導いた

2022年10月12日 07:00

02年の秋華賞を制したファインモーション

 2002年、武豊の足跡を振り返ると、フィクションだと思われても仕方ない。

 2月24日中山で落馬し、骨盤骨折。全治は通常なら短くとも3カ月、長ければ半年以上かかる重傷だ。だが、4月20日には復帰。21日のアンタレスSをハギノハイグレイドで優勝。翌週にはシンボリクリスエスで青葉賞に勝ち、藤沢和雄調教師に「秋には良くなります」と語る。ダービーではタニノギムレットに騎乗し、シンボリクリスエスを2着に下して優勝(ダービー3勝目)。夏のフランス遠征を挟みダービー→ジャパンダートダービー(ゴールドアリュール)→ダービーグランプリ(ゴールドアリュール)→スプリンターズS(ビリーヴ)とJRA、地方のビッグレースで騎乗機会4連勝。

 02年の秋華賞。武豊の騎乗馬はファインモーション。ここまで圧倒的な強さで4連勝。アイルランド生まれの外国産馬。

 99年4月6日、アイルランドのバロンズタウンスタッド。生まれてまだ3カ月のファインモーションを見て伊藤雄二調教師(当時)はしびれた。「ビリビリーッて背中に電気が走りました。時差も忘れてすぐ日本に電話しましたね。凄い馬がいた、必ず日本に連れていく…と」。

 こうした逸話が語られていたように、名門伊藤雄二厩舎でも特別な存在。当時、外国産馬には桜花賞とオークスの出走資格がなかった。ファインモーションにとって世代最強を証明する上で負けられない一戦だった。充実のNo・1騎手に、名門厩舎のエース。終始手応え抜群。余裕のレースで早め先頭。全く危なげなく押し切った。

 とはいえ単勝1・1倍、単勝支持率72%には百戦錬磨の伊藤雄二調教師をして「勝ってさすがにホッとした」と言わしめた。

 武豊はレースを振り返って「自然とあの位置。道中、本当に気持ち良かった。乗り手にこれほど気持ち良さを感じさせてくれる。素晴らしい馬です」とファインモーションに賛辞を送る。続けて「4角は不利を受けるのが嫌だったので外へ。直線に入って負ける感じはしなかった。何もしていませんよ。乗っていただけ。少しもたれる癖があるので、それに気をつけているうちにアッという間に抜け出してくれました」。

 まさしくレベルが違う、次元が違うと思わせる勝利だった。

 ちなみに翌週の菊花賞。武豊は騎乗機会9連続連対の新記録を達成した次のレースが菊花賞。ただでさえ絶大な武豊への信頼は、連続連対継続で最高潮に。騎乗馬は1番人気ノーリーズン。ご存じの方も多いと思うが、結果はスタート直後に落馬――。武豊にとって02年は激動の年。それを象徴する10月だった。

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