【秋華賞】創業120年目の伏木田牧場 ウォーターナビレラと夢の3冠皆勤「阪神の坂は得意」

2022年10月12日 05:30

伏木田修代表と「シャイニングサヤカの2022」(牝、父トピーズコーナー)

 秋のG1新企画「時の人」。秋華賞は創業120年目を迎えた“老舗”伏木田牧場にスポットを当てる。伏木田修代表(44)は牧場に35年ぶりのJRA重賞勝利をもたらしたウォーターナビレラ(牝3=武幸)を「そういう星の下に生まれてきた馬」と表現する。まるでドラマのようなエピソード満載に、愛馬の生い立ちを熱く語った。

 まるでドラマの主人公。ウォーターナビレラが伏木田牧場で生を受けたのは3年前の5月27日。幼駒が初めて立ち上がる瞬間の印象を大切にしてきた伏木田修代表は、その力強い立ち姿に衝撃を受けた。「今までにない感覚。凄い馬が出たと直感しました」。

 駿馬との出合い。すぐに脳裏をよぎったのは「生まれた時からお世話になっている」馬主・山岡良一氏との約束。“修ちゃん、いい馬が生まれたら買うからいつでも連絡してね”。甘えてはいけないとの思いから一度も推薦することなく、およそ20年が経過。「本当にいい馬が生まれたらと思ってやってきて、ついにその時が来たな…と」。

 だが、なかなか決断できない。本当にこの馬を恩人に薦めていいのだろうか――。放牧地を駆け回る当歳馬を眺め続け、1週間がたった。「相当ほれ込んでいるのが伝わったんでしょうね。見かねた妻が“いいんじゃない?”と言ってくれて」。さらに、秋華賞にアートハウス、サウンドビバーチェを出走させる三嶋牧場の三嶋健一郎氏も事情を知り、背中を押してくれたという。「健さんはまさかG1で対戦することになるとは夢にも思わなかったでしょうけど(笑い)」。意を決してナビレラの存在をオーナーに伝えると、二つ返事で話が進んだ。

 入厩先には武幸四郎厩舎を推挙した。山岡家と武家は武邦彦さんが騎手時代からの付き合い。「家同士のつながりもあったし、この血統は能力を出し切れずに故障してしまう馬が多かったので、以前、生産馬を大事に育ててくれた武幸四郎調教師はとても合っていると感じていました」。

 新馬戦を快勝。順風満帆の船出となったが、2戦目のサフラン賞(1着)の直前に良一氏が逝去。ナビレラは次戦のファンタジーSで驚異的な粘りを見せ、重賞初タイトルをつかむ。「オーナーが後押ししてくれたんだと思います。きっと、天国で大喜びしていたでしょうね」。馬主としての重賞初勝利(名義は子息の山岡正人氏)は、伏木田牧場にとっては35年ぶり、武豊&幸四郎兄弟コンビ初の重賞勝利。人とのつながりを大切にしてきたオーナーらしい劇的な勝利だった。

 桜花賞は「枠も状態もレースも完璧で、負けて悔いなし」の2着。勝ったスターズオンアースの高柳瑞厩舎には、ナビレラの母シャイニングサヤカが現役時代に所属していた。「高柳先生に祝福のメッセージを送ったら“なんかすみません”って返事が来ましたよ(笑い)」。オークスは熱中症。クイーンSも当週に気温が上がり、レース後に皮膚病の症状が出た。「暑さに弱く、ここ2戦は力は出せていません。阪神の坂が得意ですし、一発あるぞ!!とひそかに期待してます」。

 現在、伏木田牧場では20年前の秋華賞を勝ったファインモーションが功労馬として余生を過ごしている。祖父・達男氏の所有馬で、修代表が名付け親となった名牝だ。「そういった秋華賞との縁も後押ししてくれないですかね(笑い)。正人さんは全てお任せするオーナーなので、厩舎サイドがいろいろ考えてここを選んでくれました。生産馬が3冠を皆勤するなんて夢のような話。とにかく無事に頑張ってほしいです」。ドラマにはまだ続きがあった…、そんな結果を見てみたい。

 《念願の妹すくすく成長》ウォーターナビレラは“未完の大器”シルバーステートの初年度産駒。修代表は「母のシャイニングサヤカに付ければ、へイルトゥリーズンの5×5×5などスパイスが効いた配合になるので、ずっと狙っていた」という。シャイニングサヤカはナビレラを産んだ翌年は不受胎、2年目は産駒が生後直死と苦しい年月を過ごした。「生まれてくるはずだった弟妹の分もナビレラは頑張ってくれているんだと思います」。今年は父トビーズコーナーの牝馬を無事に出産。念願の妹はすくすくと成長している。

 ◇伏木田 修(ふしきだ・しゅう)1978年(昭53)10月6日生まれ、北海道出身の44歳。上智大卒。米国ケンタッキー州のアシュフォードスタッドでの研修を経て、現在は伏木田牧場の6代目代表。同牧場の生産馬にはヤマトキヨウダイ(64年天皇賞・秋、有馬記念)、ロンスパーク(86年鳴尾記念)などがいる。

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