「エキスパートライダー」亀田一洋氏”凱旋”実現へ香港で奮闘中
2022年12月7日 12:30 ▼日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」は栗東取材班の田村達人(30)が担当する。今回は香港で働く日本人に密着した。亀田一洋氏(39)は香港ジョッキークラブの職員「エキスパートライダー」。学生時代にJRA競馬学校を3度受験したが不合格。それでも馬の仕事がしたい、という思いで異国の地に飛び立った。
日本を離れ、香港で馬づくりに励んでいる。亀田一洋氏は香港ジョッキークラブの職員「エキスパートライダー」で、現在はマイケル・チャン師の下で汗を流す。香港は厩舎に雇われる日本とは違い、ジョッキークラブに雇われる。そこから各厩舎に派遣され、レース当日は開催のサポートに回ることもある。亀田氏は「13年に香港に来て、もう10年になります。香港国際競走の開催時は海外陣営の手伝いをしたり。いろんな場所でたくさん経験したが、今が一番楽しいですね」と充実の日々を過ごす。
兵庫県神戸市生まれ。小学6年の時にロイヤルタッチが勝った95年ラジオたんぱ杯3歳S(現ホープフルS)を観戦し、短期免許で来日中だった名手・ペリエの騎乗に感銘を受けた。「競走馬よりも騎手がかっこよく見えた。僕も乗りたい」。中学3年から3年連続でJRA競馬学校を受験したが不合格。それでも馬の仕事を諦めることができず、オーストラリアの競馬学校に単身、飛び立った。
4年間、オーストラリアで騎乗スキルを学び、日本に帰国。南関東の川崎を経て、11年に再び渡豪すると数年後、90年ジャパンC覇者ベタールースンアップを管理したデヴィッド・ヘイズ師の紹介で香港に拠点を移した。「オーストラリアでは香港のレースが常に流れていて、見る機会が多かった。国際レースになると各国の有名ジョッキーが香港を訪れる。オーストラリアで育った人々にとって香港は憧れの場所です」と語った。
香港国際競走は年間を通して最も盛り上がるイベント。亀田氏は過去に14年香港マイル1着エイブルフレンド、16年1着ビューティーオンリー、17年香港C1着タイムワープなどに携わった。思い出のレースは調教パートナーを務めたことがあるエグザルタントが日本馬リスグラシューとの叩き合いを首差で制した18年香港ヴァーズ。亀田氏は「直線で一度はリスグラシューに差されたがゴール前で差し返した。あれは興奮しました」と振り返った上で、「日本馬と香港馬、どっちが勝っても複雑な気持ちになりますね」と笑った。
エグザルタントはその後、20年クイーンエリザベス2世CなどG1を5勝して、昨年6月に引退。香港の中距離最強馬として一時代を築いた。
「とても乗りやすかった。いつも舌をペロペロ出しながら走っていて、かわいい馬でしたよ」。18歳のあの日、勇気を出して踏み出した一歩が今につながっている。「香港が好きだし、しばらくはここで頑張るつもり。将来は調教に乗っている馬で日本に行きたい」。ゴールはまだ先。大きな夢に向かって、歩き続ける。
◇亀田 一洋(かめだ・かずひろ)1983年(昭58)3月2日生まれ、兵庫県神戸市出身の39歳。学生時代はバドミントン部に所属し、神戸市で1位。オーストラリア競馬学校の先輩には今でも交流があるJRA騎手の藤井勘一郎がいる。
◇田村 達人(たむら・たつと)1992年(平4)11月12日生まれ、大阪市出身の30歳。高校卒業後に北海道ケイアイファームへ。育成&生産に携わった。予想スタイルは取材の感触。現在、香港に出張中。