【追憶の天皇賞・春】サクラローレル“2強”撃破の96年 遅咲きの桜が淀で満開

2023年4月26日 07:00

96年の天皇賞・春を制したサクラローレル

 96年4月22日の天皇賞・春。戦前、レースの主役は衆目一致で2頭だった。ナリタブライアン単勝1・7倍、マヤノトップガン単勝2・8倍。16頭立て3番人気のサクラローレルが14・5倍だから、「2強」の傑出が分かる。支持率にするとナリタブライアンが47・7%、マヤノトップガンは27・6%。2頭で75%以上。2頭の馬連は2・0倍でシェア36%。

 ブライアンとトップガンは、このレースの前哨戦である阪神大賞典で激突。競馬史に残る叩き合いの末、ブライアンが頭差制していた。競馬ファンは前年秋に不振を極めたブライアンの復活を歓迎し、また逆転に爪を研ぐトップガンの闘志に酔っていた。

 レースのハイライトは2周目4コーナーから。先行態勢を取っていたマヤノトップガンが坂を下って先頭に立つ。道中7番手のナリタブライアンがその外へぴったりつけた。阪神大賞典の再現かと思われたのは一瞬。マヤノトップガンの田原成貴騎手は「最初にまたがった時、途中でかかってしまう気がしていた」と道中、苦労する予感があったという。さらに「折り合いがつくたびにブライアンに来られた」と、行きたがるトップガンをなだめすかしつつ、やむにやまれぬ早め先頭。これでは粘りを欠くのも仕方がない。ナリタブライアンがトップガンを競り落として先頭へ。しかし、ブライアンの脚取りも盤石ではなかった。南井克巳騎手は「直線では突き放すかと思ったけど、その後の伸びが…。こんなに折り合いを欠いたのは初めてだったから」とレース後、回顧している。

 後続を振り切れないブライアンに、迫っていたのがサクラローレル。競り合うことなく一気にナリタブライアンを抜き去り、そのまま2馬身半の差をつけてゴール。鞍上の横山典弘騎手は左手の拳を高く突き上げた。

 折り合いを欠いた2強とは違って、横山典サクラローレルはスムーズな追走。横山典は「前半は折り合いだけ気をつけた。トップガン、ブライアンが前にいたので、2頭を目標にレースができた」と道中を説明。トップガンとブライアンの2周目4コーナーからの攻防も冷静な目で見ていた。「外に膨れないよう馬群に入れて回った。ブライアンの直後につけられたのが勝因。ブライアンさえ抜けば差されることはないと思った。並んだ時には、“勝った”と確信した」と勝負どころの動きをなぞった。「日本一のブライアンを負かせて本当にうれしい。ガッツポーズ?うれしくて思わず出ましたね」と笑った。

 定年の前年に天皇賞・春を初めて制した境勝太郎調教師は「本当にうまく乗ってくれた。しまいのいい馬なので前に目標を置くレースになると思っていたが、その通りの形」と鞍上を称賛。骨折による1年の休養から中山記念と天皇賞・春を連勝したサクラローレルに「強いブライアンを並ぶところなくかわしてくれた。期待以上に走ったよ」と満足げだった。サクラローレルはクラシックに出走できず、3歳秋から出世街道に乗ったかと思われたところで骨折、1年休養。そうした曲折をへてのG1初制覇。翌日のスポニチには「淀で満開 遅咲きサクラ」の見出しが躍った。

 2着で完全復活はならなかったナリタブライアン。負けたにもかかわらず南井騎手は私服に戻って記者会見に臨んでいる。「力を信じていた。まさかこんなことになるとは」と肩を落として語った。会見は早めに切り上げられた。

 ナリタブライアンはこの1カ月後、1200メートルの高松宮記念に出走して4着。その後に右前屈腱炎を発症し、復帰も模索されたが、ターフに戻ることはなかった。

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