【追憶のオークス】04年ダイワエルシエーロ 圧倒的人気馬を破った福永祐一の驚くべき作戦と騎乗
2023年5月17日 07:00 単勝1.4倍。04年の「第65回オークス」は桜花賞馬ダンスインザムードの1強ムード。デビュー4連勝で桜花賞制覇。藤沢和雄厩舎の所属で、鞍上は武豊。オークス馬ダンスパートナー、菊花賞馬ダンスインザダークの全妹とあれば、距離延長も嫌う理由にはならない。他馬は圧倒的1番人気馬にどう立ち向かうのか。
「ダンスインザムードが強いのは分かっていた。どうやったら勝てるかいろいろ考えた」
27歳。若手から中堅へとさしかかろうとしている福永祐一騎手のコメントだ。
「馬場はどこを通っても同じ。それなら馬の行く気に任せての先行策。逃げてもいいと思っていた。今日は最初から一発狙っていました」
その意気や良し。血気盛んに闘志を燃やして騎乗したのが6番人気、単勝21.4倍のダイワエルシエーロ。桜花賞で7着に敗れて評価を落としていたが、レース前に一つの感触を得ていた。
「返し馬の感触で、これならハナに立ってもムキになることはないだろうと思った。緩い馬場も上手。ダンスインザムードに勝つとしたら、これ(逃げ)しかないかな」
そんなふうに、ひらめきはしても、無理に行かせるのでは意味がない。レースはウイングレットが逃げ、ダイワエルシエーロは積極的に前を取ったものの、まずは逃げ馬の直後で折り合いを付ける。スローで流れても引っかかることはなかった。
向正面に入って、ハナのウイングレットが物見をして外にヨレた。ここで瞬時の判断を下し、軽く促して先頭に立つ。それでもラップを上げすぎることなく、理想的なスローの先頭。4コーナーでは手応えを確認しながら追い出しのタイミングを図る。残り600メートルの地点から先頭の馬に11秒2、11秒4のラップを刻まれては後続もつらい。最後の50メートルは脚が上がってスイープトウショウに詰め寄られたが、3/4馬身振り切った。1番人気のダンスインザムードは直線で、もたれて伸び切れず最後はヤマニンアラバスタにもかわされて4着に終わった。
ダイワエルシエーロはクイーンCを末脚勝負で制していた。桜花賞も6番手から。福永は「今回みたいなレースをすれば、みんな驚くだろうな、とは思っていましたよ」と、してやったりの笑顔を見せた。これがG1・6勝目。オークスは父・福永洋一氏が手にしていないタイトル。「おやじが勝っていないG1を勝ちたいとかは考えたことないけど、それでも、喜んでくれると思う。今回は馬の持ち味を出す騎乗ができたし、おやじに近づけた騎乗ができたかもしれないね」
周囲が驚くような作戦と騎乗。父の姿を重ねたファンも多かったに違いない。
なおダイワエルシエーロが検量室に引き揚げてきた時、真っ先に駆け寄って福永と握手したのは福永の師匠・北橋修二調教師だった。「自分の馬(マルカフローリアン6着)も頑張ってくれたけど、弟子がクラシックを勝つというのはうれしいものだよ。思い切った乗り方で上手に乗っていたよ」と満面の笑みで祝福していた。
ダイワエルシエーロの松田国英調教師は、NHKマイルCをキングカメハメハで制し、オークスも勝ち、翌週がまたキングカメハメハのダービー。「厩舎全体のムードが最高に盛り上がっています」と自信に満ちた表情で語った。3歳G1の3連勝を飾るのは、この1週間後のことだ。