【追憶の朝日杯FS】96年マイネルマックス 新婦に贈った初G1 佐藤哲が見せた勝負への執念

2023年12月13日 06:45

96年朝日杯3歳Sを制したマイネルマックスと、ガッツポーズの佐藤哲三騎手

 昭和の頃の場外馬券売り場(ウインズと呼ぶよりこちらの方がしっくりくる)では、時折、こんな会話が交わされていた。「○○(中堅騎手の名)は2人目の子が生まれたそうだ。何かと物入りだから今週は勝負だ」。

 本当に2人目が生まれたのかも、○○騎手が活躍したのかも記憶にないが、騎手や調教師の冠婚葬祭を的中に結びつけようとする馬券作戦は、あの頃、確実にあった。

 その代表例というか、騎手の結婚が優勝へとバシッと結びついた一戦がある。それが96年、朝日杯FSの前身、朝日杯3歳Sだ。

 勝ったのは2番人気マイネルマックス。鞍上・佐藤哲三(引退)は翌日に結婚式を控えていた。新婦や、その家族を喜ばせたい。当然ながら鞍上には力が入った。

 負けられない理由がもうひとつあった。前日に中山で行われたステイヤーズS。佐藤哲は1番人気トウカイパレスで挑んだが4着に敗れた。同馬はマイネルマックスと同じ中村均厩舎、村上忠正厩務員。同じトリオで2度、上位人気に推されながら連敗を喫するわけにはいかなかった。

 佐藤哲は気合の入った騎乗を見せた。勝負どころの3角。前が狭くなりかけたが、馬を鼓舞して、やや強引にすり抜けた。4角では4番手。そこからしっかり抜け出した。佐藤哲はゴール後、派手に左腕を上げ、G1初制覇をアピールした。

 不利を受けた騎手が裁決委員に申し出る事態となったが、審議ランプはつかずに確定。中村均師は、佐藤哲のファイトに感心した。「今までの哲ちゃんなら、あそこで引いていた。今日は勝負に対する凄みが違った」。

 佐藤哲はこう語った。「他馬に迷惑をかけたけど、あそこはどうしても譲れなかった。結婚式に何としても大きな土産を持って臨みたかった。僕がこんなに人のために何かをやってやろうと思ったことは初めて」。

 函館3歳S、京成杯3歳S、朝日杯3歳Sと重賞3連勝で、まずは世代の頂点に立ったマイネルマックス。佐藤哲もこの一戦を契機として、G1で勝負強い騎手へと成長していく。

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