【阪神JF】“火の国乙女”ヨカヨカ、九州産初G1制覇へ奇跡の大仕事

2020年12月9日 05:30

飼い葉を食べてリラックスするヨカヨカ

 20年は記録ずくめの年だ。コントレイル、デアリングタクトと牡牝の無敗3冠馬が誕生。アーモンドアイは史上初の「9冠」を成し遂げた。2歳女王決定戦「第72回阪神ジュベナイルフィリーズ」でも新たな記録が誕生するか。九州産初のG1制覇だ。挑むのは3勝馬ヨカヨカと福島2歳Sを豪快に差し切ったルクシオン。規格を超えた熊本産2頭が新時代を切り開く。 

 阪神JFの18頭分の出走枠のうち、既に2枠を九州産が確保していること自体が奇跡に近い。18年に生まれた現2歳世代の九州産は64頭だけ。北海道(生産頭数7072)との比較で、わずか1%にも満たないからだ。しかもヨカヨカはソダシ、メイケイエールと並ぶ、堂々たる3勝馬だ。
 
 まずはヨカヨカの馬名から。熊本弁で「いいよ」の意味なのだが正確に言えば「構わんよ」だ。一般馬が相手でも「構わんよ」。距離が延びても「構わんよ」だ。そもそも管理する谷師は九州産と意識していない。全てが規格外なのだ。

 「調教はナンボやってもへこたれない。450キロあるかないかで、これだけやれる牝馬はなかなかいない。カイ食いがいいし、心肺機能がしっかりしているからだろう」

 驚かせたのが1週前追い切り。意欲的な3頭併せで6F79秒2~ラスト1F11秒9の猛時計をマークした。これは内め(3分どころ)を回った、多少“盛った”時計ではあるが、あれだけやれたあたりが九州産の域を大きく超えている。

 早くから素質の高さは言われていたが6月阪神の新馬勝ちにインパクトがあった。2着に封じ込めたモントライゼが小倉2歳Sで2着に食い込み、京王杯2歳Sで重賞制覇。この比較からヨカヨカの高性能が改めて浮き彫りになった形だ。

 前走ファンタジーS5着で初めて土がついたが谷師は一切、悲観していない。あれは明らかに前哨戦として、とらえているからだ。

 「前走はある程度、外を回して勝ちに行く競馬。さすがに最後は苦しくなったけど内容は悪くない。使った効果は間違いなくある」

 叩き2走目となるこの中間は臨戦態勢がまるで違う。明らかに余裕残しで臨んだ前走から一転、ハードに鍛え、磨き上げられた。それに応えた彼女はまさしく火の国の女だ。

 阪神JFの歴史を振り返っても九州産で勝ち負けを演じたケースは皆無。いまだ掲示板にすら載れていない。しかし今年はひと味違った九州産がスタンバイ。新たな時代の扉をヨカヨカがこじ開ける。

 ≪“雑草の逃げ馬”ゴールドイーグルで全国区に≫九州産馬を全国区に押し上げたのは“雑草の逃げ馬”ゴールドイーグルだった。70年、宮崎県・伊藤牧場でカブトシロー産駒として産声を上げ、公営・大井でデビュー。同期のハイセイコーには敗れたが、3歳春までに6勝を挙げた。その後は紀三井寺、笠松などを渡り歩いて6戦5勝。JRA・伊藤雄二厩舎へトレードされた後は脚部不安による2度の長期休養を経て、77年大阪杯でJRA重賞初V。続くマイラーズCも逃げ切った。かつては西日本最大の馬産地として知られた九州。戦後、馬産の拠点が北海道へ移ると九州産馬は先細りしていった。ゴールドイーグル以降、JRA平地重賞を勝った九州産馬はケンセイグット(81年日経新春杯)、コウエイロマン(98年小倉3歳S)、テイエムチュラサン(05年アイビスSD)しかいない。

 ≪過去最高着順は98年の11着≫阪神JFが牝馬限定戦となった91年以降、九州産は10頭が挑戦。最高着順は98年カシノリファールの11着となっている。過去には新馬→フェニックス賞→小倉3歳S(当時)と無傷の3連勝で挑んだコウエイロマンもいたが、2Fの距離延長に泣き、2番人気ながら12着に敗れている。ちなみにこれまで出走の九州産は鹿児島と宮崎産のみ。熊本産は今回の阪神JFがJRA・G1初挑戦になる。

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