【追憶の秋華賞】00年ティコティコタック “北海道帰りを買え”10番人気馬、驚きの快走劇

2023年10月11日 06:45

2000年、第5回秋華賞を制したティコティコタック

 年齢を重ねた競馬ファンなら「ああ、そうだった」と同意してくれるだろう。秋競馬には、かつて“北海道帰りを買っておけば当たる”という時代があった。

 中山や東京、阪神や京都の900万戦(現2勝クラス)。人気を背負うのは前走の新潟や小倉で2着だった馬だが、そこを前走札幌で4、5着あたりに負けていた馬があっさり勝ち切ってしまう。5、6番人気あたりだから配当的にもおいしかった。

 理由はいろいろ考えられる。かつての北海道では伊藤雄二厩舎や橋田満厩舎、池江泰郎厩舎などの強豪が大挙、馬房を構えていた。そのため、函館、札幌開催はレベルが高く、そこで馬券圏外に敗れた馬は中央場所に戻っても好勝負できる、という図式だ。もちろん、強豪厩舎が本州に戻って、サッと勝ってしまうケースもあった。

 なぜ、今はそうではないのか、という話をすると長くなるので、それはまた次回以降に。そして“北海道帰りの激走”の象徴といえば、00年秋華賞優勝馬、ティコティコタックで間違いない。前走は札幌の大倉山特別(900万=現2勝クラス)1着。秋華賞は10番人気の伏兵だった。

 秋華賞を振り返ろう。1番人気はオークス優勝馬シルクプリマドンナ。10キロ増で臨んだローズS(4着)を叩き、ここで2冠と期待された。ティコティコタックは2枠4番。スタートを決め、好位4番手で流れに乗った。

 マイペースを刻んだヤマカツスズランが直線でも粘る。2番手を進んだグランパドドゥは後退。桜花賞馬チアズグレイスの脚もやや鈍い。ヤマカツスズランに迫ったのはインの4番手にいたティコティコタック。1完歩ごとに追い詰め、残り50メートルでついに先頭。半馬身、競り落として牝馬戦線最後の1冠をつかんだ。

 ゴール後、スタンドに向けて左腕を突き出したのはデビュー4年目の武幸四郎騎手(現調教師)。これが初のG1制覇だった。人気はなかったが、大仕事の予感はあったという。大倉山特別の前、HTB賞(4着)で騎乗した際、いい仕事ができそうな感触をつかんだ。

 このHTB賞を勝ったのはフサイチソニックだった。未勝利戦から、この一戦で3連勝をマーク。続く神戸新聞杯ではダービー1、2着のアグネスフライト、エアシャカールを2、3着に切って捨て、2馬身差をつけて快勝した大物だった。武幸騎手の予感にも納得がいくし、当時の札幌特別戦のとんでもないレベルの高さが分かろうというものだ。

 大倉山特別もハイレベルだった。牝馬限定戦だが、今の日本競馬を血統から支える牝馬も出走していた。3着スリーローマンは09年菊花賞馬スリーロールスを生んだ。5着スプリングチケットはG12勝、カレンチャンの母となった。

 今も「大倉山特別」と聞けば、真っ先に思い出すのはティコティコタックだ。しかし、今の大倉山特別は牡馬も出走するダート1700メートル戦。第2のティコティコタックなど出現のしようがない。大倉山特別がダート戦となった(15年から=21年のみ芝1200メートル)事情は知るよしもないが、たとえ特別戦でも条件をまるっきり変更するのは寂しいことだ。「大倉山特別といえばティコティコタック」というファンは全国に少なからずいるはずだ。

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