【鈴木智】2歳6月にほれた◎スタニングローズ すれ違いもあったけどついに結実

2022年10月20日 10:00

 ▼木曜日のテーマは競馬。前週にヒットした記者が「この馬券こう当てた」で的中レースを検証する。先週のG1秋華賞は3→2→1番人気と上位人気で決着したが、勝ったスタニングローズ◎の記者は意外と少なかった。その一人が鈴木智憲記者。2歳6月に「ほれた」彼女と馬券ですれ違い続けながら、大舞台でついにジャストミート。一頭の牝馬に熱を上げた55歳の独白をお聞きいただこう。
 
 実績、馬体、データ、血統、取材の感触。予想の要素は多くあるが、記者は実績を基に展開を構築し、調教や取材の手応えを加味する。ただ、今回の秋華賞は55歳となる自分の中でこれまでになかった思考法で的中した。

 スタニングローズ。ロゼカラーを祖とするバラ一族の牝系で、デビュー前から坂路の動きは評判。21年6月の新馬戦は1番人気2着だったが、この牝系では大きめの馬体(480キロ)で、それでいて一族の特徴である弾むようなピッチ走法。凄い爆発力があるわけではないが、どんな展開にも対応できる柔軟性とセンスがうかがえ、率直にほれた。

 次走で未勝利を勝ち上がり、以降は新潟2歳S、サウジアラビアRC、デイリー杯2歳Sと転戦。追いかけたが5、3、5着。それぞれ敗因を分析すれば出遅れ、切れ味負け、ためが利かず。仏の顔も三度、泣く泣く彼女と別れを告げる――。

 哀愁の五十男がかけていた期待がよほど重かったのか、追いかけるのをやめた途端だ。スタニングローズはこぶし賞を競り勝ち、フラワーC快勝。こちとら昔なじみの彼女の活躍を指をくわえて見ているしかなかった。10番人気で挑んだオークスまで2着と来ては、自分が疫病神だったのか…と気がめいる。

 紫苑Sも勝って輝く「昔ほれた彼女」が出てくる秋華賞。実績ならスターズオンアース、展開も前有利ならアートハウス、差し有利ならナミュール。スタニングローズはどう乗ってもバラ一族のくびきにとらわれ2、3着…と読んだところで、はたと気付く。自分の目は2歳時のスタニングローズを追いかけ、しこたまやられたことで曇っていないか。3歳になって彼女は一皮むけた。見ていたから分かる。スタニングローズは3歳牝馬で随一のレースセンス。切れ味でかなわなくとも、安定感なら他の本命候補にも勝る。休み明けも多い3歳牝馬限定G1。安定感こそが重要ではないか?

 果たして、スターズオンアースは出遅れ、ナミュールは4角で外にもたれ、やや差し有利に振れた展開を好位から見事に捉えたのはスタニングローズだった。最高スピードも、瞬発力も2、3着馬の方が上。ただ安定感が違った。坂井は申し分ない騎乗だったが、鞍上の運びに完璧に応える素直さが彼女の強みなのだ。

 すれ違い続けた彼女と自分の印がついに結実。一頭とキャリアを通して向き合うスタイルが斬新なわけではないが、自分の中で新たな発見だった。ただねえ、3連単6900円。関係を完全に清算するには、もうけが足りなかった。さて、スタニングローズの次のレースで印はどうしようか…。 (鈴木 智憲)

特集

この記者のコラム

他の記者のコラム