【フェブラリーS】イグナイターが園田から奇跡起こす 野田オーナー「挑戦者の立場ですけど…」
2024年2月14日 05:30 24年JRA・G1が開幕。今週は冬の東京ダート決戦「第41回フェブラリーS」だ。出走関係者に迫る企画「時の人」は兵庫のイグナイターを所有する野田善己氏にインタビュー。地方馬で中央の大舞台にチャレンジする意気込み、その先の展望、愛馬への思いなど競馬に情熱を傾けるオーナーにたっぷり語ってもらった。(聞き手・石丸 秀典)
――フェブラリーS挑戦の経緯は?
「去年、G1(Jpn1)のJBCスプリントを勝って、今年は春の選択肢としてフェブラリーSかリヤドダートスプリント(G3、24日、サウジアラビア・キングアブドゥルアジーズ、ダート1200メートル)で悩んでいました。私だけの気持ちとしてはサウジに挑戦したい思いが強かったけど、冷静に考えたらJRAの馬と違い、兵庫からだと検疫のハードルが高く、陣営も私も海外は初めて。例えれば宇宙に行くようなもんですよ。それに海外から帰ってきて馬の状態がどうか担保できない。ということで、もう一つの目標であるフェブラリーSへ。挑戦者の立場ですけど、彼って何回も奇跡を起こしていますから。奇跡って結果的には必然で、起こそうとしないと起きないですよ」
――他に理由は?
「イグナイターを2年連続でNARグランプリの年度代表馬に選んでいただけたのは、一年間どうJRAの馬と戦えたかを評価してもらったと思っています。ということは、地方競馬の代表として挑まなければいけない立場にあるんだな、というのもあります。選んでいただいた選定員の方々への恩返しにもつながるかと」
――いろんな人が背中を押してくれた。
「年度代表馬に2年連続で選んでいただいたのは、地方競馬的にイグナイターって一番強いポジションだと評価してもらえたと思っています。JRAの馬を相手にJRAの土俵でどれくらいやれるかってことも今後、地方競馬を発展させていく上で一つの指標になるかなと。ずっと逃げていたら井の中の蛙(かわず)じゃないですか」
――地方競馬からはミックファイア(昨年の南関東3冠馬)とスピーディキック(NARグランプリの21年2歳最優秀牝馬、22年3歳最優秀牝馬)も参戦。
「ある意味、地方競馬のオールスターみたいで心強いです。イグナイターだけだとマークされますけど、注意が分散すると思うんで」
――イグナイターの第一印象は?
「サマーセールに1000頭以上、出ていて“エスポワールシチーの男馬”をテーマに絞って、目についたのがイグナイターでした。第一印象は“子供っぽいけど柔らかい”。成長力はありそうだけど、三振かホームランかって感じでしたね」
――馬名の由来。
「直訳してもらったら分かるように“点火剤”という意味です。今は落ち着いているんですけど、育成の頃から調教に行くだけで気合が乗ってスイッチが入っちゃう。それで、そういう馬名にしたんです。レースでもパドックでジョッキーがまたがった瞬間に気合が入りますしね」
――父エスポワールシチーも、その父ゴールドアリュールもフェブラリーS覇者。勝てば同一レース3代制覇で歴史に残る快挙に。
「血統史もそうですけど、いろんな意味で歴史じゃないですか。勝てば兵庫競馬史上初で、地方競馬でもメイセイオペラ(99年)以来ですから。JBCスプリントを勝った時も歴史的な快挙でしたし、彼の歩みが伝説になっていくと思います。それと3年連続の年度代表馬も狙っています。過去にはいないはずですから」
――イグナイターの転厩について。
「移籍は気にしていないですね。感覚的には栗東から美浦に行ったくらい。ただ、本当はJRAから直接、園田に入厩したかったんです。(自身の所有馬)ステラモナークが2着だった兵庫ダービーを獲りたいのと、2戦目でちょっと難しいところを出して負けた時、春にJRAで大きいレースに出られるかなと思って移籍したら、ルールで兵庫ダービーを走れないと知って、大井に移りました」
――大井では?
「ユニコーンSを選びました。羽田盃で距離に限界が見えて、適性が分からず手探りでやっていました」
――そして新子厩舎で短距離路線に。
「封印を解いたみたいな感じですね。短距離適性があるとは思っていたけど、いざ短くすると延ばせないと思って、春は封印していました」
――20年秋の新馬戦で勝ち鞍がある東京マイルについて。
「マイルは守備範囲でこなせるとは思っています。新馬戦のパフォーマンス(2着に7馬身差)を見たら適性があるのかな。ユニコーンS(12着)を指摘する方がいらっしゃいますけど、スタート後の不利と道中の落馬で回ってきただけ。彼のレースはできていないですから」
――今回はJRAの西村淳と新コンビ。
「“乗ります”と言ってくれた時に“ボクも尼崎出身なんです”と聞かされました。“チーム尼崎”ですね。それに“勝てますよ”とも言ってくれました。今後は追い切りの日に打ち合わせをして、16日に乗って感触を確かめてもらう予定でいます」
――乗り方について。
「あれこれ言う気はないですよ。惨敗するのは覚悟の上なので、中途半端なレースをせず勝つ気で乗ってほしいです」
――イグナイターが伝説の馬になって「ウマ娘」のキャラクターに、と打診があったら?
「ぜひ!逆オファーしたいくらいですよ。僕も娘化したい(笑い)。地方所属の馬って実装化されていないから、なりたいですね」
――今後について。
「フェブラリーSの結果次第ですね。勝てばドバイ(ゴールデンシャヒーン、G1、3月30日、メイダン、ダート1200メートル=選出済み)に行きたいです。大目標はさきたま杯(Jpn1、浦和、6月19日、ダート1400メートル)で、チャンスはあると思っています」
――スポニチ読者へ。
「JRAに詳しい方が多いかと思いますけど、地方の馬の中にもこんなに強い馬がいるんだなということを、このレースを見て思ってもらえるよう、イグナイターには頑張ってもらいたいです」
<イグナイターの活躍で兵庫の競馬アピールを>
○…イグナイターなどを兵庫に預けている野田オーナーは“兵庫県馬主協会理事”という肩書も持っている。所属する馬主協会の森本真圭(まさよし)事務局長は「兵庫の所属かつ地方競馬代表として挑むイグナイターの応援をしていただければ、うれしいです」と語り「イグナイターをきっかけに、兵庫の競馬を知ってもらえれば」とPRした。
<思惑通りの調整> 園田のエースから地方のエースへ。兵庫のスターホース・イグナイターがJRAの舞台でも大暴れしそうだ。
一昨年は初のNARグランプリ年度代表馬の座へ。そして昨年はまさしく飛躍の年に。春はさきたま杯を制すと、秋は南部杯2着、そしてJBCスプリントでは待望のJpn1制覇。文句なしの成績を挙げて、NARグランプリ年度代表馬に2年連続で輝いた。
今年初戦はいろいろな選択肢がある中でフェブラリーSを選んだ。新子雅師=写真=は「中間は順調すぎるくらい順調。1週前の追い切りは思い通りの時計が出ていた」と手応えを口にする。この舞台にもいいイメージを持つ。「軽い馬場の方がいいタイプ。東京のダートならマイルの距離も対応できる。左回りも新馬戦や、盛岡でいい走りをしてくれているので、合っていると思います」と話す。
地方勢のフェブラリーS制覇は99年メイセイオペラ以来、遠ざかっている。これまでも「挑戦することで、得られるものは大きい」と高い目標を掲げ、それをクリアしてきた。幾度となく歴史をつくってきた新子雅師&イグナイターのコンビならまたそれも可能。競馬界の歴史に新たな1ページを刻み込む。(桑原 勲)
◇野田 善己(のだ・よしき)大阪府出身、年齢は「非公表でお願いします(笑い)」。アパレルブランド「AKM」の運営会社を経営。大阪、東京に店舗を構え、ネット通販も展開している。愛馬情報も満載のX(旧ツイッター)アカウントは@yoshiki_noda